外来・診療スケジュール

口唇裂・口蓋裂外来

口唇口蓋裂の外科治療

1. くちびるの手術口唇形成術

口唇裂といっても片側だけのもの(片側性)、赤唇(赤いくちびる)から鼻孔(鼻の穴)までわれているもの(完全裂)、両側がわれているもの(両側性)、口唇裂だけで口蓋裂を伴わないものなど患者さんによって様々な裂のパターンが見られることは説明いたしました。いずれの場合でも、裂による筋肉(口輪筋 ( こうりんきん ) )の偏位を立て直し、くちびるや鼻を機能の面でも形の上でも正常な状態にすることが手術の目的となります。したがってただ単に左右のくちびるをくっつけるのではなく、筋肉の方向や組織のずれの方向をよく考えて切開を行わなければなりません。そのため、手術の切開線は複雑になります。現在では、技術や材料が随分進歩したため、傷跡はあまり残らないようになりました。くちびると鼻の形もほとんど自然に近い形が得られるようになりました。

手術を行う時期ですが、生後すぐにという考え方もあるのですが、ある程度体が大きくなって、くちびるの筋肉もしっかりしてからの方が手術を安全に確実に丁寧に行うことが出来ます。そのため当科では、片側裂の患者さんの場合は生後2~3ヵ月で手術を行っています。両側性の患者さんの場合は片側ずつ2回にわけて行う場合と、両側を同時に1度に行う場合とがありますが、個々のお子様に応じて最も適当な手術方法が選択されます。手術時期は、片側ずつの場合は1回目を生後2~3ヵ月、2回目を5~6ヵ月で行い、両側同時に行う場合には生後2~4ヵ月で手術を行うようにしています。それまでの間は、ホッツプレートを調整して、上あごの形をできるだけ手術しやすいような状態に調節していきます。それぞれの患者さんによって最適な治療方法は少しずつ変わることもあるため、手術前の診察で最も適切な時期に、また最も適切な方法で手術が行えるように配慮しています。なお手術は全身麻酔で行い、入院に必要な期間は10日~2週間程度です。

退院後は、くちびるの傷あとに貼るテープの交換とレチナとよばれるシリコン製の鼻栓はなせんの装着をしていただきます。これは手術直後の後戻りによる変形や、傷あとの 瘢痕形成(はんこんけいせい)を防止するために、術後から3~4ヵ月の間は行っていただく必要があります。ただし患者さんによって傷あとの治り方は違いますので、入院の時の受け持ち医師や、外来での診察医師の注意に十分耳を傾けて下さい。

2. 口蓋の手術

口蓋裂によって様々な問題が生じることは先程詳しくお話しました。このような問題を解消するため口蓋形成術を行うのですが、この手術の目的は、単に裂を閉鎖するだけではなく、断裂した軟口蓋の筋肉(口蓋 ( こうがい ) 帆挙筋(はんきょきん))を縫い合わせて正常な状態に戻し、広がった 鼻咽(びいん)腔(くう)を小さくすることを主眼にしています。

口蓋裂の手術は、あまり早い時期に行うと、上あごの発育を障害します。かといって手術の時期を遅らせすぎると、異常な発音のくせ(異常 ( いじょう ) 構音こうおん)がついてしまいます。そのため当科では、この両方を最大限に満たす時期、つまり赤ちゃんが活発な発音運動を始める前で、なおかつ、できるだけ上あごの発育に影響の少ない時期として、およそ1歳前後に手術を行っています。ただし実際にはその時の赤ちゃんの状態によって少しずつ変わることもあります。また、1回で口蓋の手術を終える場合と、2回にわけて手術を行う場合があります。手術を2回に分けるのは、できるだけ上あごの発育を良くするためなのですが、口の中の状態によって最適な方法がかわってくるので、手術前の診察でいずれの方法が良いかを判断します。2回法の場合でもおよそ1歳前後に1回目の口蓋形成術( 軟口蓋(なんこうがい)形成を行い、約1歳6ヵ月から2歳前後に2回目の手術硬口蓋(こうこうがい)閉鎖を行います。手術は全身麻酔で行い、入院期間は約2週間となります。
手術の方法については、私共では裂の幅、軟口蓋の長さや筋肉の発達状態などから次に述べる3つの手術方法の中から個々の患者さんに最良な手術方法を選択しています。

1) プッシュバック法

裂を閉鎖し、軟口蓋を後方へ移動するために、上あごの粘膜を骨から外して、その粘膜ごと軟口蓋を移動する手術です。

2) プレート固定を併用したプッシュバック法

上あごの裂幅が広い患者さんの場合、手術範囲が広くなることから術後の傷の収縮が強くなり瘢痕 ( はんこん ) 収縮、上あごの横幅が非常に狭くなってしまう患者さんがおられます。そのような患者さんに有効な方法です。手術法自体はプッシュバック法と同じなのですが、加えて左右の上あごの骨にチタン製のプレートをネジ止めし、つっかえ棒にします。こうしておくことで上あごの幅を保つことができます。このプレートは4歳ころにもう一度全身麻酔をかけて外す必要があります。

3) ファロー法 

プッシュバック法とは違い、上あごの粘膜は後ろに下げないで、軟口蓋にZ型の切開を加えて軟口蓋を後方へ延長する手術法です。また軟口蓋の閉鎖と硬口蓋の閉鎖を2回に分けて行います(2回法:1回目、約1歳前後、2回目、約2歳前後)。この手術方法では、硬口蓋の部分の裂の手術時期を少しでも遅らせているため、手術による上あごの成長障害は小さくなります。残っている部分は言葉の発音への影響を考え1歳6ヵ月から2歳前後に閉鎖します。

いずれの手術法においても、手術によって一部上あごの骨が露出する部分が生じるので、この部分に新しい粘膜ができるまでセルロイド製のカバーで上あご全体を覆い、傷あとの保護を行います。装着期間は約1週間です。退院後もしばらくは柔らかめの食事をして下さい。おおむね術後4週間程度で手術前と同じ食事に戻していただくことができます。
また、この時期の乳児はなんでも口に入れたがる時期ですので、細い突起物(ボールぺン、箸など)を口の中に入れないように注意しておいて下さい(手術後3ヵ月前後までは特に注意して下さい)。
言語訓練については、入院中に当病院の顎口腔機能治療部を受診し、今後の治療について詳しい説明を受けて頂いております (詳しくは後述しております)。

3. 就学前の修正手術

口唇形成術のあとに白唇部 (はくしんぶ)(赤いくちびると鼻の間のくちびる)の傷あとが目立ったり、赤唇部の形が不整であったり、また、鼻の変形が気になるような場合には就学前に修正手術を行っています。この時期は鼻や上あごの成長時期ですので、大がかりな手術をすると、顔面の成長に影響をおよぼす可能性があるため、比較的小さな手術のみ行っています。大がかりな手術(たとえば、耳の軟骨の移植による鼻の形成など)は患者さんの成長発育がほぼ完了した時期(14~18歳)以降におこないます。

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