化膿レンサ球菌のモジュロン情報の同定と病原性発揮機構の解明への応用

広瀬雄二郎

化膿レンサ球菌は咽頭炎など比較的軽度の疾患から致死性の高い劇症型感染症まで、ヒトに多様な感染症を惹き起こす。化膿レンサ球菌は宿主環境に適応するために、転写調節ネットワークを駆使して生理的状態を変化させる。しかし、化膿レンサ球菌における転写制御因子は40個以上も推定されており、根底にある転写調節ネットワークを多面的に捉えることは困難であった。

そこで本研究では、化膿レンサ球菌におけるRNA-seq解析データを公共のデータベースより収集し、Independent Component Analysis (ICA, 独立主成分分析) を実行した。これにより、化膿レンサ球菌のモジュロン(複数の転写制御因子や環境要因による遺伝子発現制御の結果、ともに挙動する遺伝子群)を世界で初めて同定し、データベース上に公開した(図1, imodulondb.org)。さらに、得られた42個のモジュロン情報を、過去の文献で報告されているレギュロン情報と照合し、モジュロンの制御に寄与する転写制御因子を統計学的に算出した。得られた結果を、過去のRNA-seq解析のデータ解釈に応用することで、グルコースの多糖体であるマルトースおよびマルトデキストリンの利用は、溶血毒素の発現パターンを変化させることが示唆された。そこで、溶血毒素であるストレプトリジンS(SLS)またはストレプトリジンO(SLO)の欠失株を用い、各糖質の添加条件で溶血活性を測定した。その結果、菌がグルコースを利用する場合の溶血活性はSLO依存的であるのに対し、マルトース利用ではSLS依存的、マルトデキストリン利用ではSLOおよびSLS依存的に溶血活性を発揮することが明らかとなった (図2)。

図1. iModulonデータベースのWebページ.

 


図2. 本研究の概要.

 

以上の結果より、本研究において同定した化膿レンサ球菌における42のモジュロン情報は、未知の病原性発揮機構を探索するために有用な情報を提供することが示唆された。

 

【参考文献】

Hirose Y., Poudel S., Sastry AV., Rychel K., Lamoureux CR., Szubin R., Zielinski CD., Lim HG., Menon DN., Bergsten H., Uchiyama S., Hanada T., Kawabata S., Palsson BO., Nizet V. Elucidation of independently modulated genes in Streptococcus pyogenes reveals carbon sources that control its expression of hemolytic toxins. mSystems. 8:e0024723. 2023.