トリセルラータイトジャンクションを介する化膿レンサ球菌の上皮バリア突破機構

 劇症型レンサ球菌感染症 (STSS) の発症過程において,化膿レンサ球菌は物理バリアである上皮細胞層の細胞間接着分子を傷害し,組織深部へ侵入する.我々は,STSS患者から分離した一部の化膿レンサ球菌株が宿主のプラスミノーゲン (PLG) を利用し,バリア機能の維持に重要なトリセルラータイトジャンクションから上皮バリアを突破する現象を見出した (図1).

          図1.トリセルラーTJを介した化膿レンサ球菌の上皮バリア突破

 

 タイトジャンクション (TJ) は,隣接する上皮細胞間をシールし,外界からの異物の侵入を防御する物理バリアとして機能する.細胞間接着により多角形に縁取りされた上皮細胞の集合体である細胞シートには,2細胞間の接着部位以外に,3つの細胞の角が接するトリセルラーコンタクトが多数存在する.この領域はトリセルラーTJと呼ばれ,主な構成分子としてトリセルリンが同定されている.

 上皮バリアモデルであるヒト大腸粘膜上皮細胞 Caco-2に化膿レンサ球菌をヒトプラスミノーゲン (PLG) 存在下もしくは非存在下で感染させ,共焦点蛍光レーザー顕微鏡で菌体の局在を観察した.その結果,化膿レンサ球菌はヒトPLG依存的に,トリセルラーTJに局在することを確認した (図2).また,菌体付着部位では細胞間接着を担うZO-1の分解が認められ,菌体がトリセルラーTJから深部に侵入している様子も観察された.一方,トリセルリンノックダウン細胞では,菌体のトリセルラーTJへの局在性が低下した.

 

図2.化膿レンサ球菌感染細胞の共焦点レーザー顕微鏡観察像
化膿レンサ球菌 (緑) はヒトPLG存在下において,トリセルリン (赤) との相互作用を介してトリセルラーTJから上皮バリアを突破する.青色はZO-1を示す.

 

 トリセルラーTJの主要構成タンパクであるトリセルリンは2つの細胞外ループを有する4回膜貫通型タンパクである.トリセルリン細胞外ループとヒトPLGとの相互作用を表面プラズモン共鳴法により解析した結果,ヒトPLGはトリセルリンに結合し,トリセルリン細胞外ループの217Lysと252LysがPLGとの相互作用に重要であることが明らかになった.また,PLGは菌体表層のPLG結合タンパクであるSENとトリセルリンを繋ぐ分子ブリッジとして機能することを証明した.さらに,PLG結合能を消失したSEN変異株の上皮バリア通過能は,野生株と比較して有意に低下した.

 以上の結果から,化膿レンサ球菌はPLGのトリセルリン結合能を利用することにより、構造的に脆弱なトリセルラーTJに優先的へ局在し,細胞間接着分子の傷害によりトリセルラーTJから上皮バリアを突破することが明らかになった.

 

Sumitomo, T., Nakata, M., Higashino, M., Yamaguchi, M., Kawabata, S. 2016: Group A Streptococcus exploits human plasminogen for bacterial translocation across epithelial barrier via tricellular tight junctions. Sci Rep, 7: 20069.