A群レンサ球菌が産生する 線毛の発現機構の解析

 A群レンサ球菌 (GAS) はヒトを唯一の宿主とし,初発感染部位と考えられる皮膚あるいは咽頭へ膿痂疹や咽頭炎を惹起する.そして,二次性続発疾患としてリウマチ熱や急性糸球体腎炎などの二次性疾患を起こす場合がある.さらに,壊死性筋膜炎やショック症状を伴う劇症型A群レンサ球菌感染症に罹患した場合,高率での死亡例が報告されている.このようにGAS感染症の病態は急性や慢性の経過を辿り,局所性や全身性の病態を呈する.また,多様な解剖学的部位に多岐にわたる疾患を引き起こす.その疾患が起こる解剖学的部位の多様性は,数多くの細菌種,特にレンサ球菌種のなかで突出している.この多様性は,GASが産生する病原因子群,GASのヒト組織への指向性,宿主因子等に起因すると考えられる.GAS感染による病態発症の機構は完全には解明されておらず,特に発展途上国において有効な予防法と治療法の確立が待ち望まれている. 

 近年,GASをはじめとして肺炎球菌やB群レンサ球菌が線毛様構造物を菌体表層に発現し,付着因子として機能する可能性が示唆されてきた.GASの線毛産生を担う遺伝子群は,FCT領域 II型とIII型において,コラーゲン結合タンパクをコードする cpaとその下流に位置する4遺伝子から構成されるcpaオペロンである.この遺伝子群産生物のなかで,Cpa,FctA,FctB は表層タンパクであり,線毛を構成する.通常の膜タンパクは同じ血清型間で配列相同性に大きく差は認められないが,これら膜タンパクのアミノ酸配列を比較すると,M型特異的に配列多様性が認められる(配列相同性:約30~70%).GAS線毛の生物学的・臨床的に重要な点は,線毛タンパクがT血清型を担うトリプシン耐性タンパク(Tタンパク)であることである.残る2つの遺伝子中,srtC はグラム陽性菌に特徴的な,膜タンパクを細胞壁へ結合させる酵素の一種であるSortase Cをコードする.Sortase Cはhouse-keeping sortaseであるSortase Aとは基質特異性が異なり,線毛タンパクの連結に働くsortaseである.そして,LepAは線毛形成過程においてシャペロンとして機能することが明らかになっている.複数種の線毛構成タンパクと酵素群の協調作用による線毛組立て機序,発現様式,線毛の機能を解明することにより新規予防法や診断用キット等の開発に繋がると考えている.