S. sangunis が産生する SWANの解析

 Streptococcus sanguinisはペリクルを介して歯面に定着し,デンタルバイオフィルムの形成開始に寄与する.本菌は元来,亜急性感染性心内膜炎患者の血液より分離されたことから名付けられたレンサ球菌である.実際,本菌は亜急性感染性心内膜炎の病巣から高頻度に分離される.したがって,病態形成過程において,宿主の免疫機構を回避し心組織に定着すると考えられる.近年,好中球の細胞外殺菌機構としてNETs (neutrophil extracellular traps) が注目されている.NETsは好中球の細胞死と共に放出される網状の構造物であり,DNA,抗菌ペプチド,およびヒストン等から構成される.感染性心内膜炎患者の心臓弁から分離された疣贅内でNETsの存在が観察されていることから,病態形成にNETsが関与する可能性がある.口腔レンサ球菌と比較して,多様な細胞壁架橋型の表層タンパク質を産生することから,亜急性細菌性心内膜炎の発症過程において,これらの表層タンパクが血流での免疫回避や心臓組織への菌体定着に機能する可能性が示唆されてきた.既知のゲノム配列から表層タンパク候補群を抽出し,ヌクレアーゼドメインをもつSSA1750タンパクに着目した.組換えタンパクはDNAおよびRNAを分解したことから,SWAN (Streptococcus sanguinis wall-anchored nuclease) と名付けた.部分組換え体を用いた解析から,SWANのDNase活性にはヌクレアーゼドメインだけでなくアミノ基末端側も重要であることが推察された.類縁のDNase群で保存されている推定活性アミノ酸残基と推定Ca2+・Mg2+結合アミノ酸残基に点変異を導入することにより,SWANのDNase活性は消失または減弱した.次に,SK36株を親株としてswan欠失株と復帰変異株を作製し,各菌株をNETsと反応させ,経時的に生菌数を算出した.その結果,野生株および復帰変異株と比較して,swan欠失株の菌体生存率は有意に低下した.同様に,Lactococcus lactisの異種発現系を用いて解析したところ,swan の発現によりNETs中での菌体生存率が有意に上昇した.以上の結果から,S. sanguinisは菌体外にSWANを分泌し,菌体外におけるヌクレアーゼ活性を示すことが明らかになった.また,そのヌクレアーゼ活性はNETsによる殺菌からの回避に寄与する可能性が示唆された.