化膿レンサ球菌のプロテアーゼによる皮膚病態形成機構の解析
(千葉大学大学院医学研究院皮膚科学教室との共同研究)
化膿レンサ球菌は咽頭炎や膿痂疹などの局所性疾患から,軟部組織壊死や多臓器不全を伴う劇症型レンサ球菌感染症まで幅広い病態を惹起する.化膿レンサ球菌が皮膚の創傷部位から感染した場合,痂皮性膿痂疹や丹毒などの強い炎症を伴う化膿性病変が形成される.デスモソーム構成タンパク質であるデスモグレイン1 (Dsg1) とデスモグレイン3 (Dsg3) は,カドヘリンスーパーファミリーに属し,皮膚表皮バリア機能の維持に寄与する.本研究では,デスモグレインによる細胞間接着を傷害する化膿レンサ球菌の病原因子を検索し,皮膚病態形成との関連を検証した.
Dsg1とDsg3 の組換えタンパク質を作製し,臨床分離株の培養上清と反応させた結果,複数の臨床分離株培養上清によるDsg1とDsg3の分解が認められた.種々のプロテアーゼ阻害剤を用いて,化膿レンサ球菌が産生する分泌型システインプロテアーゼ SpeBがDsg1およびDsg3の分解に関与することを証明した.また,SpeBによるデスモグレインの分解が皮膚病態形成に及ぼす影響をマウス経皮感染実験により検証した (図1).野生株もしくは復帰変異株感染マウスでは,皮膚の紅斑と浮腫を伴う化膿性病変が形成された.また,感染皮膚組織のHE染色像では,感染部位における潰瘍形成と炎症細胞の浸潤を認めた.一方で,speB欠失株感染マウスでは,皮膚病変の形成が抑制された.免疫組織化学染色像において,野生株もしくは復帰変異株感染マウスでは,菌体が表皮から真皮浅層にかけて観察され,菌体の局在部位におけるDsg1とDsg3の染色性の低下を認めた.speB欠失株感染マウスでは,菌体は表皮の表層に限局し,Dsg1とDsg3の染色性は保持された.
以上の結果から,化膿レンサ球菌が産生するプロテアーゼ SpeB は,デスモソーム構成タンパク質であるDsg1およびDsg3を分解することにより,膿痂疹などの皮膚感染症の発症に寄与することが示唆された (図2).
【参考文献】
Sumitomo T, Mori Y, Nakamura Y, Honda-Ogawa M, Nakagawa S, Yamaguchi M, Matsue H, Terao Y, Nakata M, Kawabata S. 2018. Streptococcal cysteine protease-mediated cleavage of desmogleins is involved in the pathogenesis of cutaneous infection. Frontiers in Cellular and Infection Microbiology. 8:10.