フィブロネクチン由来のキメラ免疫グロブリンによる抗肺炎球菌製剤の開発


 わが国において,肺炎は死亡の原因疾患として第3位に位置する.特に70歳を超える高齢者で罹患率が高い感染症でもあり,超高齢社会における対処法の確立が急務とされている.

 しかしながら,近年,肺炎の代表的な原因菌である肺炎球菌は,ペニシリン等の薬剤耐性化が進み抗生物質による治療が困難となっている.そこで,本研究では,抗生物質とは異なる機序で肺炎球菌に奏功する安全性の高い新たな治療製剤を検索することとした.

 肺炎球菌がフィブロネクチン(Fn)結合能を有することから,Fnの肺炎球菌結合部位を決定し,免疫グロブリン定常部位のキメラタンパク(=ヒト分子由来のキメラ免疫グロブリン)を構築した.さらに,構築したキメラタンパクが肺炎のみならず,種々の院内感染や二次感染の起因菌として問題になっているMRSAに対しても,奏効可能であるかを検索した.

 大腸菌および哺乳動物細胞内で発現させた組換えキメラ免疫グロブリンは,上皮細胞への肺炎レンサ球菌の付着および侵入を阻害しなかった.しかしながら,哺乳動物細胞にて発現させたキメラ免疫グロブリンは,ヒト全血の肺炎レンサ球菌貪食能を有意に高めることが示された.フローサイトメーターを用いた解析を行ったところ,動物細胞由来のキメラ免疫グロブリンは,肺炎レンサ球菌の菌体表層にFn由来領域を介して結合することが明らかになった.

 キメラ免疫グロブリンはin vitroの系においてオプソニン作用を発揮し,治療薬としての有用性が示唆された.


 本研究成果につきましては,平成20年4月18日の「日本感染症学会総会(松江市)」にて報告予定です.