S. agalactiae のシアル酸分解酵素様分子 NonA の解析

担当: 山口雅也

 

 Streptococcus agalactiaeは、肺炎球菌と同様にヒトの肺炎や髄膜炎の原因菌として知られている。肺炎球菌では、シアル酸分解酵素NanAがヒトの中枢神経系への重要な侵入因子として働く。S. agalactiaeにおいては、シアル酸で修飾された莢膜が重要な病原因子であることが知られているが、シアル酸分解酵素様分子NonAについては、これまでにその機能についての報告が為されていなかった。

 分子進化解析を行ったところ、肺炎球菌においてnanA遺伝子の変異が進化的に強く制限(純化選択)されてきたことが明らかとなった。一方、S. agalactiaenonA遺伝子は変異に強い制限がないことが示唆された。また、一部の株ではnonA遺伝子が偽遺伝子化していることが示された。さらに、S. agalactiaeはシアル酸で修飾された莢膜多糖を持ち、シアル酸分解活性を持たないことが示された。

 S. agalactiaenonA遺伝子欠失株を作製し、野生株と表現型を比較したところ、両者に差は認められなかった。また、nonA遺伝子欠失株に肺炎球菌のNanAを発現させた場合、自身の莢膜に修飾されたシアル酸を分解した。さらに、ヒト末梢血中やマウス髄膜炎モデルにおいて、菌の生存率が大きく抑制された。

 これらの知見から、NonAはS. agalactiaeの病原性に寄与しないこと、ならびにS. agalactiaeにおいて、活性型シアル酸分解酵素の発現による利益は莢膜のシアル酸修飾によって得られる利益を下回ることが示された。つまり、同じStreptococcus属に分類され、惹き起こす疾患が一部共通している細菌間でも病態発症機構が大きく異なることが示唆された。進化の過程において、肺炎球菌が莢膜多糖をシアル酸で修飾せず、シアル酸分解活性を得たのに対し、S. agalactiaeはシアル酸分解活性を持たず、自身の莢膜をシアル酸で修飾するという生存戦略を選択したと考えられる。

【参考文献】

Yamaguchi M., Hirose Y., Nakata M., Uchiyama S., Yamaguchi Y., Goto K., Sumitomo T., Lewis A.L., Kawabata S., Nizet V. Evolutionary inactivation of a sialidase in group B Streptococcus. Sci. Rep. Vol. 6. 28852. 2016.