肺炎球菌が血液脳関門を突破する機構の解析
広瀬雄二郎
肺炎球菌は,肺炎や中耳炎の主な起炎菌であり,口腔を含む上気道などから分離される.全身に本菌が伝播した場合,髄膜炎や敗血症などの致死性が高い全身疾患を引き起こす.髄膜炎の発症において,本菌が血液脳関門を突破する詳細な機構や菌体表層分子の関与などについて,不明な点が残されている.
そこで我々は,肺炎球菌の血液脳関門の突破に寄与する分子の同定を試みた.過去の文献およびin silico 解析を基に,血液脳関門の突破に寄与する推定の菌体表層分子として,形質転換誘導性分子Ccs4を選出した.肺炎球菌TIGR4株を用いてccs4欠失株,および相補株を作製し、血液脳関門の主要構成細胞である脳微小血管内皮細胞への付着・侵入試験に供試したところ,ccs4の欠失株により付着・侵入率が有意に低下した.さらに,マウス髄膜炎モデルでは,ccs4欠失株感染マウスの致死率は野生株および相補株感染マウスのそれと比較して有意に低下した.また,感染24時間後に採取した脳および血液サンプル中の細菌数を検討した結果,血液中の検出菌数に有意差は認められなかったが,脳組織中の菌数はccs4欠失株感染マウスのみで有意に低下した.さらに,感染24時間後の脳組織における細菌の局在を,蛍光免疫多重染色で確認した.ccs4欠失株感染マウスと比較して,野生株および相補株感染マウスにおいて,菌体による脳血管内皮細胞への付着および血液脳関門の突破が高頻度に確認された (図1).Ccs4は9回膜貫通型タンパクであり,正に荷電した領域が細胞外に局在することが予測された.しかし,カチオン性抗菌ペプチドLL-37による各菌株に対する最小発育阻止濃度及び最小殺菌濃度に差は認められなかった.
図1. マウス髄膜炎モデル感染24時間後の脳組織における肺炎球菌の局在.野生株および相補株感染マウスでは,肺炎球菌 (緑) が脳血管内皮細胞層 (赤) を突破している像が高頻度に確認された (矢印).
以上の結果から,肺炎球菌のCcs4 は脳血管内皮細胞への付着・侵入因子であり,髄膜炎発症に寄与する可能性が示された (図2).
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図2. Ccs4は膜貫通型タンパクと予測され,血液脳関門の主体である脳血管内皮細胞層の突破に寄与する.
【参考文献】
Hirose Y, Yamaguchi M, Goto K, Sumitomo T, Nakata M, Kawabata S. Competence-induced protein Ccs4 facilitates pneumococcal invasion into brain tissue and virulence in meningitis. Virulence. Taylor & Francis.9:1576-1587. 2018.