マウス壊死性筋膜炎モデルの感染局所における化膿レンサ球菌の遺伝子発現解析

広瀬雄二郎

化膿レンサ球菌は咽頭・皮膚などから分離されるグラム陽性球菌である。化膿レンサ球菌はしばしば組織深部に侵入し、壊死性筋膜炎などの重篤な皮下軟部組織感染症を惹起する。感染局所では、宿主の細胞や組織による炎症応答が、化膿レンサ球菌の遺伝子発現に影響を与えていると考えられる。しかし、壊死性筋膜炎の感染局所における化膿レンサ球菌の遺伝子発現パターンは不明である。そこで、RNA-seq解析を用い、感染局所における菌の遺伝子発現を網羅的に評価することにした。

まず、劇症型感染症由来の血清型M1型化膿レンサ球菌5448株を、マウス壊死性筋膜炎モデルに供試し、感染24、48、および96時間後に組織を回収した。感染組織から細菌由来のRNAを分離し、RNA-seq解析を行なった。THY培養条件と比較して、いずれの感染時間においても発現変動を示す化膿レンサ球菌の483遺伝子を同定した (上方制御306遺伝子、下方制御117遺伝子)(図1)。生体内で発現上昇していた遺伝子には、様々な病原因子、アルギニン・ヒスチジンの代謝経路、糖質の取込・利用経路をコードする遺伝子群が確認された。また、病原因子の中でも溶血毒素ストレプトリジンS、システインプロテアーゼ、DNA分解酵素をコードする遺伝子の顕著な発現上昇が示された。一方、生体内で下方制御されていた遺伝子では、酸化ストレス反応及び細胞分裂に関与する遺伝子などが確認された(図2)。

 

図1. マウス壊死性筋膜炎モデルの感染局所において、いずれの感染時間においても発現変動する化膿レンサ球菌の遺伝子.THY培地でのデータと比較して、各感染時間において有意に発現が変動した遺伝子を用いてthree-way Venn diagramを描画した.

 


図2. マウス壊死性筋膜炎モデルの感染局所において顕著に発現変動する化膿レンサ球菌の遺伝子群.THY培養条件と比較して、各感染時間において有意に発現が変動した遺伝子群の中から、log2 fold-changeが2以上で、感染局所での平均のreads per kilobase million (AV RPKM) が1,000以上の遺伝子(赤)および、log2 fold-changeが-2以下でTHY培養液中での平均のreads per kilobase million (AV RPKM) が1,000以上の遺伝子(青)を抽出し,ヒートマップを描写した.

 

以上の結果から、マウス壊死性筋膜炎モデルの感染局所において、化膿レンサ球菌はアミノ酸・糖質・などの栄養利用経路や毒素の発現を上方制御している一方で、酸化ストレス反応や細胞増殖に寄与する分子を下方制御することが示唆された。

【参考文献】

Hirose Y, Yamaguchi M, Okuzaki D, Motooka D, Hamamoto H, Hanada T, Sumitomo T, Nakata M, Kawabata S. Streptococcus pyogenes transcriptome changes in inflammatory environment of necrotizing fasciitis. Appl Environ Microbiol. 85(21): e01428-19. 2019.