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小児・思春期におけるう蝕および歯周病に関する臨床的研究


本院小児歯科受診中の口唇口蓋裂患児におけるう蝕の現況

小島あゆち

口唇口蓋裂患児の裂部で生じている
う蝕の1例

 口唇口蓋裂は、先天性異常の1つとして知られ、胎生の第4週から第8週に至る器官形成期における発生上の障害によって生じ、軟口蓋あるいは硬口蓋またはその両方が閉鎖していない口蓋裂と、口唇の一部に披裂が生じる口唇裂の総称である。大阪大学歯学部附属病院には、年間延べ2500人程度の口唇口蓋裂患者が受診し、口唇口蓋裂一貫治療の概念のもと、口腔外科、顎口腔機能治療部、矯正科および小児歯科等の各専門分野が連携して診療している。口唇口蓋裂患児は、一般的にう蝕罹患率が高いとされており、特に顎裂部付近に萌出する歯においてう蝕が発生しやすい。小児歯科における主要な役割は、小児期の口腔衛生管理の徹底であり、特にう蝕の発生を予防することを念頭に置いている。また、生じてしまったう蝕に対しては、その進行を抑制するとともに、可及的速やかに治療を行うことに力を注いでいる。
 今回、本院小児歯科における口唇口蓋裂患者のう蝕の現況について調査を行った。調査対象は、当科を受診する2歳11か月~5歳1か月(平均年齢4歳1か月)の口唇口蓋裂患児70人とした。


本調査で分析した患児におけるdf 歯数

 本調査における口唇口蓋裂患児のう蝕有病者率は53%であり、1人平均df歯数は1.87であった。平成23年度歯科疾患実態調査結果によると、4歳児のう蝕有病者率は34.8%であり、1人平均df歯数は、1.5であることから、口唇口蓋裂患児のう蝕罹患率は高いと言える。さらに、口唇口蓋裂患児の歯種別う蝕率を比較したところ、上顎乳中切歯が最も高く(17.9%)、下顎第一乳臼歯および第二乳臼歯が次いで高い(14.4%)ことが明らかになった。上顎乳中切歯は、健常な小児においてもう蝕罹患率が高い歯種ではあるが、口唇口蓋裂患児においても、最もう蝕に罹患しやすい歯種であることが示された。その理由としては、唇裂部の緊張のためブラッシング時に上唇の排除が困難であることが考えられる。また、顎裂部に近接した場合、歯軸の傾斜が認められることが多く、自浄性が悪いこと等も挙げられる。上顎乳中切歯は1歳過ぎには萌出するため、低年齢の時期から指導を開始していくことが重要であると考えている。また今回、下顎の第一乳臼歯および第二乳臼歯といった裂部と離れている部位のう蝕罹患率が高いことも示されたことから、定期検診時には、裂部に対するブラッシング指導に限らず、一般的な口腔衛生指導や食事指導にも重点を置くことが重要であると考えられる。



1歳6か月児歯科健康診査における哺乳う蝕罹患者の実態調査

大川玲奈

 日本の乳幼児期におけるう蝕有病者率は、他の先進国と比較して依然高い状況にある。この原因の一つに哺乳う蝕が挙げられる。哺乳う蝕とは、離乳時期を過ぎても長期にわたって就寝時に母乳を与える、または、人工乳あるいは糖質を含む飲料を哺乳ビンに入れて飲ませる等の誤った授乳行為により乳幼児に認められる重症う蝕である。この哺乳う蝕の特徴は、スクロースだけではなく酸産生の基質となるあらゆる糖質を含む甘味飲料を飲ませながら寝かせるという習慣によって引き起こされるということである。就寝時には唾液分泌が減少するため、摂取された母乳や甘味飲料はそのまま口腔内に停留することになり、口腔細菌により代謝され、産生された酸が口腔内を覆うことになる。最初は産生された酸に最も近接する上顎乳切歯の口蓋側面がう蝕に侵され、次第に萌出しているすべての乳歯が侵される(図1)。

初期病変
 
進行病変
 
(図1)典型的な哺乳う蝕

 本研究では、平成20年に大阪府吹田市保健センターが実施した1歳6か月児歯科健康診査を受診した2506人から哺乳う蝕罹患患児を抽出した。また、同時に保護者に対して行われた対象児の生活習慣に関する問診調査の結果から、う蝕罹患患児のリスク因子に対する分析を行った。
 う蝕罹患患児は、1歳6か月児の調査対象の4.7%、哺乳う蝕罹患患児は全体の0.7%、う蝕罹患患児の15.3%に認められた(図2)。また、哺乳齲蝕罹患児において1歳6か月の時点で母乳を飲ませている患児が有意に多かった(P=0.0002; odds比 6.373)(表)。

(表)哺乳齲蝕と食習慣,生活習慣との関連


(表)哺乳齲蝕と食習慣,生活習慣との関連
 今回の研究結果から、母乳による長期の授乳が哺乳う蝕に対する重要なリスク因子となることが示唆された。母乳栄養には多くの意義があるが、う蝕発生のリスクになり得ることも、歯科保健に関わる関係者のみならず広く世間に知らしめ、適切な対応法を確立していく必要があると考えられる。
(文献)
Okawa R, Nakano K, Yamana A, Nishikawa N, Nakai M, Taniguchi M, Matsumoto M and Ooshima T. Evaluation of factors related to nursing caries in 18-month-old Japanese children. Ped Dent J 21, 49-55, 2011.


母親の保有する歯周病原性細菌がその子どもに与える影響

仲野和彦
 小児期の対象では,歯肉炎に罹患する症例に遭遇することはよくあるものの,歯周炎にまで移行することはあまりない.一方で,思春期以降の対象では,歯周炎を発症する症例に遭遇することがある.これまでに,小児期から思春期にかけての歯周病原性細菌の定着や伝播に関して,様々な分析を行ってきた.本研究では,子どもとその母親の唾液中の歯周病原性細菌の分布に焦点をあて,分子生物学的手法を用いて検討することにした.各細菌種の特定は,唾液サンプルから抽出した細菌DNAを用いて,下記の10菌種それぞれに対する特異プライマーによるPCR法にて行った.

 右表の下線で示した3菌種は,red complex と称され,歯周疾患の重症度と関連するとされている.本研究では,母親の唾液中にこれらの菌種が存在しているかを検討し,その子どもの唾液中に存在している菌種との関連を検討した.その結果,red complex 菌種を保有する母親では,歯周病原性細菌の総菌種数が多いだけではなく,その子どもの総菌種数も多くなる傾向があることが明らかになった.また,red complex 菌種を保有する母親の子どもは,持たない母親の子どもと比較して,高い確率で red complex 菌種を持っていることが示された.


(文献)
Tamura K, Nakano K, Hayashibara T, Nomura R, Fujita K, Shintani S, Ooshima T. Distribution of 10 periodontal bacteria in saliva samples from Japanese children and their mothers. Arch Oral Biol 51, 371-377, 2006.


中央定期検診受診とう蝕および歯周病罹患の関連

大川玲奈
 小児歯科診療においては,来院時に認められた口腔疾患の処置が終了すると,それ以降は回復された健康状態を維持し,新しく発生する疾病を予防するために,成長,発育に応じて定期検診を継続して行うことが必要である.定期検診は,小児歯科医の役割のうちでも最も重要で,当診療室では,担当医による定期検診に加えて,1983年からは年に一度,担当医以外のドクターが診査するシステム(中央定期検診)を導入した.この中央定期検診では,口腔内診査に加え,食事指導,口腔清掃指導にも重点を置いている(図1).
MT8148株とRecA欠失変異株におけるバイオフィルム構造の比較
図1 小児歯科診療の流れ

 この中央定期検診受診者の定期検診受診回数とう蝕や歯周疾患に関する指標との関連を分析することによって,中央定期検診の効果を評価した.対象には2005年夏休みに実施した中央定期検診の受診者のうち,9歳30名,12歳41名,15歳36名を抽出し,プラーク指数,う蝕経験歯率および第一大臼歯のう蝕経験歯数と中央定期検診受診回数との関連を回帰分析を用いて検討した.その結果,15歳の群でプラーク指数およびう蝕経験歯率(DFT率)と中央定期検診受診回数との間に負の相関を示す傾向が認められた.また,中央定期検診受診回数と第一大臼歯のう蝕経験歯数 (DFT) は12歳と15歳の群で負の相関を認めた(図2).
MT8148株とRecA欠失変異株におけるバイオフィルム構造の比較
図2 定期検診受診回数と第一大臼歯のDFTとの関係

 以上のことから,継続的な中央定期検診受診がプラーク指数とう蝕経験歯数の低下につながる可能性を認め,中央定期検診で継続的に行っている刷掃指導,食事指導およびフッ素塗布やフィッシャーシーラントなどの予防処置が,小児の健康な口腔の育成に明確に効果を上げているということを示唆している.
(文献)
Okawa R, Nakano K, Fujita K, Nomura R, Nonomura E, Miyamoto E, Ooshima T. Evaluation of recall examination system used in our clinic. Ped Dent J 17, 176-178, 2007.