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トップ研究内容>小児歯科学教室の研究内容

口腔細菌の及ぼす全身疾患に対する病原メカニズムに関する研究


血清型 kStreptococcus mutans が誘発する腸炎悪化メカニズムの解析

小島あゆち
 う蝕(むし歯)の主要な病原性細菌である Streptococcus mutans は,感染性心内膜炎の起炎菌としても知られています.これまで当教室での研究により血清型 k 型の S. mutans により脳出血の増悪を引き起こす可能性について示してきました.本研究では,マウス腸炎モデルを用いて,S. mutansが腸炎悪化を誘発する可能性について検討することにしました.
 マウスモデルでは,デキストラン硫酸ナトリウム溶液を飲料水として自由摂取させることで軽度の腸炎を引き起こした後,S. mutansの血液分離株であるTW295株を頸静脈より感染させました.するとTW295株を感染させると6日ほどで顕著に衰弱しました.一方で,非感染コントロール群およびS. mutans 標準株である MT8148 株感染群では著明な変化は認められませんでした.また,TW295株感染群の大腸を観察したところ,腸炎の増悪が認められました.生存率の比較を右図に示します.TW295株感染群では他の群と比較して生存率が有意に低いことが明らかになりました.一方,TW295株を経口感染させたモデルでは腸炎の悪化は引き起こされず,一定菌量以上の TW295 株が血中に侵入することによって腸炎の悪化が生じることが示されました.
その後,様々な角度から分析を行った結果,TW295タイプの S. mutans が引き起こす可能性のある腸炎の悪化に対して,以下のメカニズムが考えられました.

 まず,歯科治療やブラッシングといった何らかの原因でTW295株のようなタイプのS. mutansが血管内に侵入した際に,肝臓に到達した菌が実質細胞に取り込まれることが第1ステップであることが考えられます.そして,肝臓でIFN-ɣなどのサイトカインの産生を誘導し,全身の免疫機構の不均衡を生じさせることで,腸炎の悪化につながるというメカニズムが想定されました.また,実際に腸炎患者の口腔内から分離したTW295タイプのS. mutansをマウスに感染させたところ,腸炎の悪化が認められました.以上のことから,TW295タイプのS. mutansが血液中に侵入すると,腸炎の悪化を引き起こす可能性の高いことが示唆されました.
(文献)
Kojima A, Nakano K, Wada K, Takahashi H, Katayama K, Yoneda M, Higarashi T,Nomura R, Hokamura K, Muranaka Y, Matsuhashi N, Umemura K, Kamaisaki Y,Nakajima A, Ooshima T. Infection of specific strains of Streptococcus mutans, oral bacteria, confers a risk of ulcerative colitis. Sci Rep 2,332,2012.
小島あゆち(学位論文) Streptococcus mutans が誘発する腸炎悪化メカニズムの解析


Porphyromonas gingivalis と非アルコール性脂肪肝炎との関連

仲 周平
 生活習慣病 1 つである脂肪肝は,飲酒との因果関係がよく知られているが,アルコール非摂取者においても,過剰栄養摂取に起因する脂肪肝が認められ,非アルコール性脂肪肝(Non-alcoholic fatty liver diseases: NAFLD)と呼ばれている.さらに病状が進行し,肝臓の炎症性変化や線維化が顕著になった状態は,非アルコール性脂肪肝炎(Non-alcoholic steatohepatitis: NASH)と称されている.これまでに,いくつかの生活習慣病と歯周病原性細菌との関連が検討されているが,脂肪肝との関連についての報告はまだない.

 肝生検により NAFLD と診断された150 名の患者と全身疾患を有さず投薬を受けていない健常者 60 名の対象から提供を受けた唾液より細菌 DNA を抽出し,歯周病原性細菌 6 菌種に対する特異プライマーを用いた PCR 法により検討した.その結果,NAFLD 患者群では,対照群と比較して唾液中の Pg および Td の保有率が有意に高いことが明らかとなった.また,マウスに高脂肪食を摂取させ,その 4 週間後に頸静脈より Pg を感染させて,脂肪肝形成に対する影響を検討した.その結果 Pg を感染させ群では,非感染群と比較して,有意な体重増加と脂肪蓄積を伴う肝重量の増加を認めた.
 本研究結果より,NAFLD 患者より高頻度に PgTd などの歯周病原性細菌が検出されることが明らかとなった.また,マウスモデルを用いた検討から,Pg 感染群では,肝臓において NASH 病変に類似する脂肪蓄積が認められたことより,Pg をはじめとした歯周病原性細菌が NASH 発症に関与している可能性が示唆された.
(文献)
仲 周平(学位論文)
非アルコール性脂肪肝炎発症における Porphyromonas gingivalis の役割


Porphyromonas gingivalis 保有者における大動脈瘤検体の特徴

仲野和彦
 これまでに,マウス大腿動脈光損傷モデルにおいて,血管内皮の損傷下で,Porphyromonas gingivalis OMZ314株を頸静脈より感染させると,血管内皮の著しい肥厚が生じることを明らかにしました(図1).


 その後,様々な条件下での動物実験や培養細胞を用いた検討の結果,P. gingivalisが関与するコレステロール非依存性の血管内皮肥厚に関して,図2に示すようなメカニズムの仮説の構築に至りました.最初のステップとして,血管内皮の損傷の存在と,その部位への菌と血漿成分の反応物の接触が必須であり,それにより,S100カルシウム結合タンパクファミリーであるS100A9分子の発現を上昇させ,収縮型の平滑筋を増殖型の平滑筋への形質転換へと至ることが考えられました.本研究では,これまでの研究成果から得られた仮説を,実際にヒト大動脈検体において検討することとしました.


 大動脈瘤摘出術を受けた対象のうち,デンタルプラークの提供にご協力いただいた31名の方を対象にしました.PCR法で検討すると,P. gingivalisの陽性者が17名で,陰性者が14名でした.図3は,それぞれから摘出された動脈瘤検体を,S100A9抗体で免疫染色した組織切片の一例です.
 矢印で示している箇所が,S100A9分子が発現している箇所です.P. gingivalisの陽性者における検体の方が,陰性者からの検体よりも強く発現していることが分かりました.また,S100A9分子の発現部位に一致して,増殖型の平滑筋の存在が確認されました.さらに,P. gingivalis陽性者の検体は,胸部大動脈瘤よりも腹部大動脈瘤に多く認められることも分かり,陽性者における病変の大きさは,陰性者よりもやや小さい傾向であることも明らかになりました.

(文献)
Nakano K, Wada K, Nomura R, Nemoto H, Inaba H, Kojima A, Naka S, Hokamura K, Mukai T, Nakajima A, Umemura K, Kamisaki Y, Yoshioka H, Taniguchi K, Amano A, Ooshima T. Characterization of aortic aneurysms in cardiovascular disease patients harboring Porphyromonas gingivalis. Oral Dis 17, 370-378, 2011.


デンタルプラーク中に存在するアモキシシリン耐性口腔レンサ球菌の
分布に関する検討

根本浩利
 感染性心内膜炎は,歯科領域で最もよく知られている全身疾患の1つであり,一旦発症すると死に至ることもあるとされる.そこで,ある種の心疾患を有する患者に対して,観血的な歯科治療を行う際には,抗生物質の術前投与を行うことが推奨されている.一方で,術前投与をしていたのにも関わらずペニシリン耐性菌によって感染性心内膜炎を発症した症例の報告もあり,アモキシシリンに感受性の低い菌の存在の可能性が示唆される.しかし,口腔細菌におけるアモキシシリン感受性に関する検討は,あまり行われていない現状にある.そこで,本研究では,全身疾患を有していない健常な小児・思春期および成人患者を対象に,デンタルプラーク中におけるアモキシシリンに感受性の低い口腔レンサ球菌種の存在を検討することとした.その結果,小児・思春期の対象者では約5%,成人の対象者では約4%がアモキシシリンに対する感受性が極めて低い口腔レンサ球菌種を保有しており,感染性心内膜炎の起炎菌とされる Streptococcus oralisStreptococcus sanguinisおよび Streptococcus mitis などの菌株が分離された(下表).今後,心内膜炎発症高リスク患者における大規模な調査が必要であると考えられる.
(文献)
1. Nemoto H, Nakano K, Masuda K, Wada K, Ardin AC, Nomura R, Ooshima T. Distribution of oral streptococci highly resistant to amoxicillin in dental plaque specimens from Japanese children and adolescents. J Med Microbiol 60, 1853-9, 2011.

2.Masuda K, Nemoto H, Nakano K, Naka S, Nomura R, Ooshima T.Amoxicillin-resistant oral streptococci identified in dental plaquespecimens from healthy Japanese adults. J Cardiol (in press)


血清型 kStreptococcus mutans 菌株が引き起こす
脳出血悪化の可能性

仲野和彦
 う蝕(むし歯)の主要な病原性細菌である Streptococcus mutans は,感染性心内膜炎の起炎菌としても知られています.これまでに,血清型 k 型の S. mutans 菌株が血液中に侵入した際に,多型核白血球による貪食作用を受けにくく,血液中に残存しやすいことを示しました.また,感染性心内膜炎患者から摘出された心臓弁を分析した結果,S. mutans が陽性である検体では血清型 k 型が陽性である頻度が高いことを明らかにしました.本研究では,マウス中大脳動脈損傷モデルを用いて,S. mutans 菌株による脳出血悪化への関与について検討することにしました.
 マウスモデルでは,片側のみの中大脳動脈の内皮を光学機器で損傷した後,S. mutans TW295 株を頸静脈より投与しました.左写真は菌を投与して 24 時間経過した後に摘出した脳組織です.
矢印で示しているのは,中大脳動脈損傷側の脳の表層で認められる出血の様子です.また,脳組織をスライスしたものが右写真です.矢印部を中心に広範囲に及ぶ出血が認められます.一方で,血管非損傷の反対側の脳組織では,特に変化は認められませんでした.

 その後,様々な角度から分析を行った結果,血清型 k 型の S. mutans 菌株が引き起こす可能性のある脳出血の悪化に対して,以下のメカニズムが考えられました.
 通常は,損傷を受けた内皮は,露出したコラーゲンと血小板とが反応して止血へと向かうと考えられます(図左).しかし,血液中にコラーゲン結合能を有し,血小板凝集を阻害するTW295株のような菌が侵入すると,菌が出血部に集積してしまい,出血を悪化させるというメカニズムが想定されました(図右).また,TW295株が強い負の菌体表層電荷を有することも,このメカニズムに関連している可能性が示唆されました.TW295株以外の血清型 k 型の菌株でも検討した結果,このメカニズムによって,脳出血が悪化する可能性が示唆されました.

 本研究は科学研究費補助金若手研究(A)「口腔細菌の関わる脳血管疾患におけるメカニズムの解明とその予防法の追究(21689052)」によって行われました.
(文献)
Nakano K, Hokamura K, Taniguchi N, Wada K, Kudo C, Nomura R, Kojima A, Naka S, Muranaka Y, Thura M, Nakajima A, Masuda K, Speziale P, Shimada N, Amano A, Kamisaki Y, Tanaka T, Umemura K, Ooshima T. The collagen-binding protein of Streptococcus mutans is involved in haemorrhagic stroke. Nat Commun 2, 485, 2011.


循環器疾患病変部組織における口腔細菌の検出

根本浩利
近年,心臓血管疾患病変部組織から数種の歯周病原性細菌の検出が報告され,口腔細菌と心臓血管疾患との関連が取りざたされている.一方,それらの菌種と感染性心内膜炎の起炎菌とされている口腔レンサ球菌に関する報告は少ない.そこで,心臓血管病変部検体に存在する歯周病原性細菌と同時に口腔レンサ球菌の存在を検討することにした.本研究では,大阪府内の病院の心臓血管外科で施行された開胸術によって摘出された 117 症例の心臓弁検体,および動脈瘤摘出術の際に摘出された 86症例の動脈瘤検体,および同病院歯科口腔外科において同患者のうち 58人から採取したデンタルプラークに関して分析を行うことにした. まず,それぞれの病変部検体より細菌 DNA を抽出し,歯周病原性細菌6菌種および口腔レンサ球菌6菌種に対する特異的プライマーを用い PCR 法により検討した.その結果,心臓弁組織および動脈瘤組織から Treponema denticolaAggregatibacter actinomycetemcomitans などの歯周病原性細菌は検出されるものの,う蝕原性細菌である S. mutans が他の細菌種よりも高い頻度で検出され,同菌が心臓血管疾患と何らかの関わり合いがある可能性が示唆された.
 
Mut : S. mutans, Sob : S. sobrinus,
Sal : S. salivarius,
San : S. sanguinis, Ora : S. oralis,
Gor : S. gordonii,
Pg : P. gingivalis, Pi : P. intermedia,
Td : T. denticola,
Tf : T. forsythia,
Aa : A. actinomycetemcomitans,
Cr : C. rectus

 
心臓弁膜症検体
 
大動脈瘤検体(大動脈壁)
 
大動脈瘤検体(壁在血栓)
 

(文献)
Nakano K, Nemoto H, Nomura R, Inaba H, Yoshioka H, Taniguchi K, Amano A, Ooshima T. Detection of oral bacteria in cardiovascular specimens. Oral Microbiol Immunol 24: 64-68, 2009.


Multilocus sequence typing analysis of Streptococcus mutans strains with the cnm gene encoding a collagen-binding adhesin

Jinthana Lapirattanakul
Background:
Streptococcus mutans is one of the oral pathogens related to infective endocarditis (IE), and the Cnm protein, a cell surface collagen-binding adhesin of S. mutans, is known as one of the virulence factors regarding IE.

Purpose of the study:
We aimed to determine the distribution of the cnm gene, encoding Cnm, in a large number of clinical isolates of S. mutans from Thai subjects. Then, the cnm-positive strains were classified using multilocus sequence typing (MLST). In addition, the data were analyzed together with our previous MLST data of cnm-positive strains from Japan and Finland in order to evaluate the clonal relationship among S. mutans strains harboring the cnm gene.

Methods:
- Detection of the cnm gene by PCR
- MLST technique

Results:
The cnm gene was detected in 12.4% of all 750 Thai isolates, and serotype f showed the highest rate of detection (54.5%). According to MLST data, 2 clonal complex groups (groups 5 and 11) were revealed as the important clones related to cnm- positive S. mutans from various origins of isolation.



Discussion:
S. mutans in the groups 5 and 11 classified by MLST might be considered as hypervirulent clones of S. mutans in terms of IE. Therefore, more studies about the common characteristics of strains in these clones might provide the efficient way to track IE related S. mutans strains.
Reference:
Lapirattanakul J, Nakano K, Nomura R, Leelataweewud P, Chalermsarp N, Klaophimai A, Srisatjaluk R, Hamada S, Ooshima T. Multilocus sequence typing analysis of Streptococcus mutans strains with the cnm gene encoding a collagen-binding adhesin. J Med Microbiol (in press)
本研究は,日本歯科医師会国際学術交流基金の援助によって行われた.


唾液中に存在する Streptococcus mutans のコラーゲン結合能に関する分析

野村良太
 う蝕の病原細菌として知られている Streptococcus mutans は,その病原性と関与する数種類の主要な菌体表層タンパクが知られている.最近,I 型コラーゲンの結合能に関与する分子量約 120kDa の Cnm タンパクが同定され,それをコードする cnm 遺伝子の配列も明らかにされた.I 型コラーゲンは象牙質を構成する主要なタンパク質であることから,cnm 遺伝子を保有する S. mutans と象牙質う蝕との関連性が示唆された.そこで本研究では,母子唾液サンプルを用いて分子生物学的手法により,cnm 遺伝子の局在と臨床的指標との関連性を検討した.
1. S. mutans 臨床分離株における cnm 遺伝子の保有頻度
 本学歯学部附属病院小児歯科を受診した 213人の子どもから分離した S. mutans 213 株のうち, cnm 遺伝子を有する株は 17株 (8.0%) であった.一方で,当科の母親教室に参加した母親 60人から分離した S. mutans 60株のうち,cnm 遺伝子を有する株は 8株 (13.3%) であった.
2.母子唾液サンプルを用いた分析
 55組の S. mutans を保菌する母子の唾液を用いて分子生物学的手法による分析を行ったところ,cnm 遺伝子を有する母親の子どもの cnm 遺伝子を有する割合は 72% であり,cnm 遺伝子を持たない母親の子どもの cnm 遺伝子保有率 (9%) よりも有意に高い値を示した(図1).このことから,cnm 遺伝子を持つ S. mutans は母親から子へと伝播している可能性が示唆された.
3.cnm 遺伝子の有無と乳歯う蝕との関連
 cnm 遺伝子陽性の S. mutans が唾液中に存在する小児の dmf 率は,cnm 遺伝子陰性の S. mutans が唾液中に存在する小児や,S. mutans が存在しない小児と比較して有意に高い値を示し, cnm 遺伝子と乳歯う蝕との関連性が示唆された(図2).


(文献)
Nomura R, Nakano K, Taniguchi N, Lapirattanakul J, Nemoto H, Groönroos L, Alaluusua S, Ooshima T. Molecular and clinical analyses of the gene encoding the collagen-binding adhesin of Streptococcus mutans. J Med Microbiol 58, 469-475, 2009.