これまでの臨床遺伝学的研究から,疾患の多くは遺伝的要因と環境要因との相互作用により発症することが明らかとされてきました (図1).中枢神経系疾患においても同様に,両要因の発症への関与が知られていますが,とくに近年,環境要因説に基づく疾患動物モデルを用いた研究が数多く見られています.薬理学講座では,広義の意味での環境要因として注目されている「胎生期・周産期の母体の外的・内的環境要因」が出生児の精神発達に及ぼす影響や「発育期の環境要因」が精神神経機能に及ぼす影響について研究を進めてきました.これまでに,代表的抗てんかん薬であるバルプロ酸 (VPA) を投与した妊娠マウスより出生した仔において自閉スペクトラム症 (ASD) 様行動の発現と脳の器質的変化との関連を見いだし,ドパミン神経系標的薬やオキシトシン (図2) によるASDの新たな薬物治療の可能性を報告しています.また,このASDモデルマウスを玩具等で刺激を強化した“豊かな環境”で発育させると発症が緩和されることを見いだしています (図2).こうした環境要因による病態変化に関わる神経分子機序の解明を基にして,中枢神経系疾患のみならず,「環境薬理学」という新たな概念からのアプローチによって,これまでにない薬物治療ストラテジーの開発を目指しています.

アルツハイマー病 (AD) は,認知障害と記憶低下を主症状とする進行性の神経変性疾患で,人口の高齢化に伴い罹病者が増大しているが,その病態発症の分子機構の詳細は未だ解明されておらず,完治させうる治療法や予防法が見いだされていない.また,近年世界各国で実施された大規模な疫学調査において,糖尿病,高血圧や高脂血症など種々の生活習慣病が,ADの90%以上を占めている“孤発性AD”の危険因子であることが示されているが,これらを結びつける病態分子基盤についても不明である.薬理学講座では,生活習慣病モデルとくに糖尿病モデルを用いて,“生活習慣病から孤発性AD発症に至る分子機序”を解明することを目指しています.

大阪大学大学院歯学研究科

口腔生物学・生体材料学系部門 薬理学講座

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