これまでに大阪大学歯学研究科にて行われた研究によって、クルクミンの持つ様々な性質が歯周病予防に効果的であることが見出されました(1)(2)。
先進口腔環境科学(サラヤ)共同研究講座では、クルクミンの効果を最大限に発揮する方法を解明し、歯周病予防に活かすための研究を行っています。
(1)Izui S et al., Antibacterial activity of curcumin against periodontopathic bacteria. J Periodontol, 87(1): 83-90, 2016.
(2)Izui S et al., Inhibitory effects of curcumin against cytotoxicity of Porphyromonas gingivalis outer membrane vesicles. Arch Oral Biol, 124, 105058, 2021.
クルクミンはウコンの根茎に多く含まれる黄色の物質です。ウコンは主にアジア地域で古くから料理のスパイス(ターメリック)や染物の染料として使われてきました。なかでも、中国、インド、タイ、インドネシアなどでは漢方薬や塗り薬としても使われています。19世紀にクルクミンがウコンから初めて発見され、以来数多くの研究によって抗菌作用、抗酸化作用、抗炎症作用、抗腫瘍作用など様々な効果があることが明らかになってきました。2022年7月の時点で、19000件を超えるクルクミンに関する論文が執筆されており、論文数も年々増加傾向にあることから、クルクミンにはまだまだ未知の効果があることが予想されます。
歯周病菌に対する増殖抑制効果
クルクミンは歯周病の原因菌であるP. gingivalisに対して高い増殖抑制効果を発揮します。
クルクミンは水にほとんど溶解しません。これまでに共同研究講座の研究によって、溶解していないクルクミンでは増殖抑制効果が十分に発揮されないことがわかってきました。
現在、溶解を補助する成分との組み合わせにより、クルクミンが最大限の効果を発揮する条件に注目した研究を進めています。
図1. クルクミンの抗菌効果に対する可溶化剤の影響
可溶化剤の濃度増加によってクルクミンの溶解性が向上し、P. gingivalisに対して高い増殖抑制効果を発揮した。
クルクミンの色と抗菌効果の関係
クルクミンは黄色の物質ですが、光によって褪色してしまうことが知られています。日光に当てて褪色させたクルクミンではP. gingivalisに対する増殖抑制効果が大きく減少することが確認されました。
図2. 褪色したクルクミンによるP. gingivalis増殖抑制効果
(左図)日光に長時間あたることでクルクミン溶液は褪色した。
(右図)褪色したクルクミンは増殖抑制効果が大きく低下した。
また、クルクミンと類似した構造でも、白色のテトラヒドロクルクミンのP. gingivalisに対する増殖抑制効果をクルクミンと比較しました。その結果、興味深いことにテトラヒドロクルクミンはクルクミンと比較して増殖抑制効果がはるかに低いことが明らかになりました。
この結果から、クルクミンの色は抗菌効果に重要な要素であることがわかりました。
図3. クルクミンとテトラヒドロクルクミンによるP. gingivalis増殖抑制効果
(左図)クルクミン・テトラヒドロクルクミンの構造と色の違い
構造がわずかに違うだけで、色などの性質が異なる
(右図)クルクミノイドはクルクミンと同様の増殖抑制効果が見られたが、
テトラヒドロクルクミンは増殖抑制効果が大きく低下した。
歯周病菌のバイオフィルム形成抑制効果
口腔内において、後期定着菌であるP. gingivalis(下図緑色)はStreptococcus属(下図赤色)などの初期付着菌のバイオフィルムを介してデンタルプラークに取り込まれると考えられています。
クルクミンはP. gingivalisの初期定着菌への結合を抑制することでバイオフィルムの形成を抑制することが明らかになっています(1)。また、共同研究講座における解析によって、口腔ケア製品において一般的に使用される抗菌性の天然成分と比較してもクルクミンは高いバイオフィルム形成抑制効果を有することが明らかになりました。
図4. クルクミンによるバイオフィルム形成抑制効果
クルクミンによってP. gingivalisバイオフィルム(緑色)の形成が抑制された。
図5. バイオフィルム形成抑制効果効果の比較
口腔ケア製品において一般的に使用される天然成分(成分A)と比較して
クルクミンには高いバイオフィルム形成抑制効果があることが確認された。
(N=5, Steel-Dwass多重比較検定, *P<0.05)
クルクミンの口腔内細菌に対する選択的抗菌性
クルクミンの口腔内細菌に対する抗菌効果を研究していく中で、P. gingivalisには低濃度で増殖抑制効果を示すが、口腔内常在菌であるS. gordoniiやS. oralisには低濃度では増殖に影響を与えないことが明らかになりました。現在市販されているオーラルケア製品に含まれるいくつかの天然成分について評価すると、クルクミンのみが歯周病菌に対して低濃度で高い増殖抑制効果を示し、口腔内の常在菌に対してはほとんど効果を示さないという「選択的抗菌性」を持っていました。
図6. 各種天然成分による歯周病菌および口腔内常在菌に対する増殖抑制効果
他の天然成分はどの菌種に対しても効果がほぼ一定であるが、
クルクミンはP. gingivalisに対して選択的に高い増殖抑制効果を発揮した。
この結果から、クルクミンは歯周病菌の増殖のみを選択的に抑え、善玉菌を含んだ口腔内の常在菌には影響を与えないことが示唆されました。クルクミンをオーラケアに用いることで口腔内細菌叢のバランスを整え、より良い口腔環境をつくることが期待されます。今後、より詳細な選択的抗菌性の解析を行っていきます。