大阪大学歯学部附属病院顎口腔機能治療部(顎治)は、大学病院を中心に、全国の関連施設や連携大学と協力をしながら、臨床、研究、教育を行っています。その中で、若手歯科医師の教育は最も重要な分野の一つであり、次世代の歯科医師を育成することは、大阪大学歯学部の重要な役割だと考えています。
顎治では、摂食嚥下障害・睡眠時無呼吸症・構音障害・ドライマウス等についての臨床研究、唾液腺など臓器再生をめざした基礎研究に力を入れており、数多くの新しい分野の業績を残しています。大学院時代にこれらの研究に従事することで、しっかりとしたresearch mindを身につけることができます。国内学会のみならず、国際学会での発表の機会もあります。また、関連施設を有効に活用し、共同研究にも積極的に参加してもらっています。海外留学のサポートもしています。
若手歯科医師は、すぐに簡単に成長できることが重要だと思いがちです。もちろん、成長できることは大切ですが、目先の技術習得を目標にするのではなく、常に「10年後の自分」の姿をイメージし、そこに自らの目標を設定することが大切だと考えています。近年、顎治に魅力を感じて、近畿圏内だけでなく、東京や中国・四国、九州、沖縄などの遠方から国内留学に来られるようになりました。シニアクラスの歯科医師や歯科衛生士が開業後や就職後であっても、一時休職され、勉強に来られる姿には感銘を受け、我々自身も共に学ばせていただいています。
入局を希望される方は、大阪大学出身者にかぎらず、熱意があれば歓迎いたします。同じ目標を持って切磋琢磨できるということは、個々が成長していく上で大きな財産になると思っています。全国各地からやる気のある若者が顎治の門戸を叩いてくれることを祈っています。見学を希望される方は、大歓迎です。顎治の魅力を実際に感じてください。見学希望者や相談質問がある方は、下記まで連絡をお願いします。
大阪大学歯学部附属病院顎口腔機能治療部
住所 〒565-0871 大阪府吹田市山田丘1-8
連絡先 TEL.06-6879-2276, 2278/FAX. 06-6879-2279
教室OBや非常勤講師の
コメント
①現在はどのような場で活躍されていますか?
寝屋川市で嚥下障害・ドライマウス・睡眠時無呼吸に特化した歯科医院を2009年に開業しました。外来診療だけでなく訪問診療も行っています。時間的には半々くらいでしょうか。口腔機能障害への対応や多職種連携などのニーズが高まっているためか、依頼があり、2013年に寝屋川市歯科医師会の理事に、2015年から大阪府歯科医師会の理事になりました。
②顎口腔機能治療部に入局するきっかけを教えてください。(顎治という進路を選択する際に、不安や悩みはありましたか?また、それはどのように解消されましたか?もしあれば教えてください)
もともと、食べたり、しゃべったりすることを診たくて、広島大学歯学部に入学しました。卒業前に進路を話し合う機会があり、その場でチューターの先生には、「そんなものは歯医者の仕事ではない」と言われました。当時の広島大学にも、嚥下や構音を診る部門はありましたが、あまりメジャーではなく・・・。少し落ち込みましたが、広島大学にいらした言語聴覚士の先生から大阪大学顎口腔機能治療部を教えてもらい、先輩方の診療を見学して、やはりニーズはあるんだということを肌で感じ、入局したいと思いました。ただ、その時は今のような形で開業することは想像もしていませんでした。いずれは一般歯科もするようになると思っていましたので、一般歯科治療をしないということに関して、不安が無いわけではありませんでした。ただ、部活の先輩に「別のことをしっかりやって、その後に一般歯科を始めたとしてもゼロからのスタートにはならないよ。一個、山を登ったら登り方は体が覚えているので、もちろん努力は必要だけどね^^」という言葉をいただいたので、自分のやりたいことで思いっきり頑張りたいと思い、入局しました。
③顎口腔機能治療部での研究や臨床の経験は今、どのように活かされていますか?(顎治で経験を積まれて、現在良かったと感じることなど教えてください)
当院は顎治と同じ診療内容で、顎治での経験が無ければ当院は成立しませんので顎治での経験全てが活かされています。今でも、悩んだ症例などは医局で先輩や後輩に相談させてもらっています。あとは、やはり仲間がいる安心感をもらえているところですかね。少し特殊な歯科医院ですので周りの先生方には理解していただきにくい場合もあります。そんな時に医局に行くとこの方向で間違っていないんだと再認識することができ、大変心強いです。
④これから進路を考えている方にメッセージをお願いします。
進路は悩みますよね。思いっきり、悩むべきだと思います。悩みに悩んで、決めた後はもう迷わずに、その場所で精一杯の努力をしてください。私も色々悩みましたが、そんな時に言語聴覚士の先生に「決める前は思いっきり悩む!決めたらもう悩まない!」と言われました。今でも、この言葉は私にとって大事な言葉の一つとして残っています。色々悩んであとは直感で決めるのも良いかもしれません。「人生戻れるとしたらまた歯医者を選びますか?顎治を選びますか?」と聞かれることがありますが、今の私であれば間違いなく、歯医者で顎治を選びます。(正直戻りたくはないですが・・・。)どの選択をしても、選択した場所で、思いっきり頑張れば、苦労はするかもしれませんが良い歯科医師人生を送れると思います(と思いながら日々頑張っています)。口腔を通じて地域の方々の健康を支える歯科医師という仕事に誇りをもってもらえたらと思います。
①現在はどのような場で活躍されていますか?
山口県の生まれ育った故郷で診療所を開業しています。もともと父が地元で開業していましたので、継承する形で新築移転しました。開業医ですので、一般歯科治療や矯正治療も行うのですが、「大学で行ってきた専門診療を地方にも広めること」を大義名分として帰りましたので、いびき・睡眠時無呼吸、摂食嚥下障害、構音障害、ドライマウスなど口腔機能障害を対象とした専門外来を行っています。予想していたよりも専門外来のニーズがあり、年々患者数は増加しています。また地域の特徴として、米軍基地があるため外国人の方も多数来院されます。
開業医以外の社会活動としては、全国の学会や地域の歯科医師会などの団体活動も積極的に行っています。
②顎口腔機能治療部に入局するきっかけを教えてください。(顎治という進路を選択する際に、不安や悩みはありましたか?また、それはどのように解消されましたか?もしあれば教えてください)
学生のときに顎治の講義を受けて、口の機能の大切さを感じていました。一方で、口腔外科的な手術や全身管理にも憧れていましたので、口腔外科か顎治かで進路に迷いました。しかし、将来的には開業することも想定していましたので、少なくとも歯医者として当然である虫歯・歯周病などの一般歯科治療ができるようにならないといけないので、専門分野に突き進むことにはいささか不安もありました。そんなとき、顎治の先生から「顎治だからといって歯医者を捨てているわけではないよ。私たちのコンセプトは口の機能の回復に主眼を置いているのであって、そのためには内科的な診断も行うし、リハビリ的な訓練も取り入れるし、補綴的な対応や手術も行うし、必要であれば歯の治療もインプラント治療も取り入れる。治療はあくまで手段であって、治療することをゴールにしているわけではないんだ。そのためには多くの知識や技術を身に着けることが大切だね。」というコメントをいただきました。この言葉を聞いて、自分の頭の中でもやもやしていたものがすっきりして入局を決めました。
③顎口腔機能治療部での研究や臨床の経験は今、どのように活かされていますか?(顎治で経験を積まれて、現在良かったと感じることなど教えてください)
顎治は臨床・研究そして人間関係も厳しいところでした。私は要領の悪いタイプなのでとにかく心意気だけは負けまいと、がむしゃらに食いしばって頑張りました。「理論なき実践は暴力である。実践なき理論は無力である。」「個人活動ではなく社会の中の1つのチームとして動いている。」「最初の3年で医療者としての資質が決まる。」「今の自分に診られたいか自問せよ。」・・・本当に本誌面だけでは語りつくせないほどのプロとして、医療者として、社会人としてやっていかなければならない根本を数々教えていただきました。
研究に関しては物事に対して論理的に考えることができるようになりました。理論は家内には嫌がられますが(笑)、人に理解してもらうときには非常に役に立ちます。 臨床に関しては、どんな難症例に対しても、要するに何をすればよいのかという真になる考え方を身に着けることができるようになりました。今まで診たことがないような症例にあたっても、対処できる考え方があるので後ずさりすることはありません。顎治で学んだ専門性に関しては、何よりも専門性が重要視される時代になっていますので、いろんな場面で重宝されることが多いです。このアドバンテージは、開業医ならではの医院経営といった面においても莫大な効果を発揮します。
④これから進路を考えている方にメッセージをお願いします。
自分が正しいと考えた道、大切と思った道を進んでほしいですね。実は、私が進路を決める前、多くの方々に「将来開業する気持ちがあるのならば、顎治のような大学でしか生きていけないような専門性の高いところに入ってはいけないよ。」という否定的なアドバイスもいただいていました。もちろん私のことを本気で心配してくださったゆえのアドバイスですのでとても感謝しています。しかし、結果的にはこの専門性が開業するときにアドバンテージになりました。人生はどう転ぶか分からないものです。
周囲の意見や雰囲気に惑わされて決めるのではなく、真は何が大切なのか最後は自分が正しいと思った道を選んでほしいと思います。そして、選んだからにはその道の中で一生懸命研鑽してください。ときどき隣の芝生が青く見えることがあります。今やっていることが無駄ではないかと不安になる瞬間があります。しかし、決してそんなことはありません。どの道に進んでもその中で一生懸命頑張ることにより、やがてほかの道を歩んできた人と胸中を共有することができるようにもなりますし、対等に渡り合えるようにもなります。大いにしっかり悩んでください!
①現在はどのような場で活躍されていますか?
2017年4月から、大阪歯科大学の高齢者歯科学講座に所属しています(図1)。高齢者の一般的な歯科診療に加えて、急性期・回復期病院への訪問診療に携わっています。顎治で学んだ専門性を生かし、ドライマウス外来を担当しています。また2017年9月から睡眠歯科外来という専門外来を立ち上げました。歯科だけでなく、内科(肥満外来)や耳鼻咽喉科と連携し、閉塞性睡眠時無呼吸症の患者を診察しています。今後は、在宅への訪問歯科診療・嚥下診療の部門を開設する予定です。
②顎口腔機能治療部に入局するきっかけを教えてください。(顎治という進路を選択する際に、不安や悩みはありましたか?また、それはどのように解消されましたか?もしあれば教えてください)
僕が歯学部学生の時は、「コンビニより多い歯科医院!」など、メディアにて歯科医師過剰時代の到来キャンペーンが行われている最中でした。当然、我々歯学部学生は自分達の将来に不安を抱えていました。そんな中、ある先生が講義の中でおっしゃった言葉があります。「君たち国立大学の歯学部生は、国民の税金で歯医者にしてもらったも同然です。歯科医師人生は長い。卒後10年は大学に残って研究し、社会貢献をして国民の皆さんに恩返しをしなさい。次の10年は、働く場所は大学、病院、診療所、何処でもいいので、地域のために尽力しなさい。それからの10年は、自分の思うような好きな仕事をしなさい。社会のため10年、地域のため10年、そして最後は自分のための10年です。」
この言葉を聞いて、僕は大学に残ることを決めました。そして、大学でしかできない診療をしている所に残ろうと思いました。それが顎治でした。当時の自分は、10年後の将来設計は皆無で、日本の高齢化を見据えて!などの大志はありませんでした。顎治という開業には直結しない分野に飛び込むことに周りからの反対の声はありましたが、気になりませんでした。なぜなら、開業に直結しない事は、大学でしか出来ない事を証明していることになるからです。
とはいえ、不安はありました。4年目までは同世代の歯科医師に比べて、一般的な歯科技術の習得が遅く、不安でした。8年目になると一般歯科の技術も不安はなくなり、顎治の専門である嚥下や睡眠の臨床で、患者さんに喜んでもらえるようになり、歯科医師として自信が持てるようになりました。10年目には、臨床・研究・社会活動(学会など)など、活躍の場を広げる事ができ、医療人としての社会に貢献できている実感が得られました。12年目にはカナダに睡眠の臨床研究で留学(図2)し、国・言語が異なる環境であっても、自分の仕事をする事ができ、国際人としての自信がつきました。15年目には大阪歯科大学に赴任し、現在では睡眠・嚥下・ドライマウスなど顎治で学んだ自分の強みを発揮できる仕事ができ、HAPPYな人生をおくることができています。
③顎口腔機能治療部での研究や臨床の経験は今、どのように活かされていますか?(顎治で経験を積まれて、現在良かったと感じることなど教えてください)
臨床の場では、大阪歯科大学にてドライマウス外来、睡眠歯科外来の二つの専門外来を担当しています。また地方にて訪問嚥下診療を行い、地域医療を実践しています。研究の場では、大学では大学院生の嚥下に関する生理学的な研究の指導、国内学会では睡眠歯科医療に関するガイドライン作成や多施設共同研究、国際的には留学先であるカナダと、睡眠時無呼吸の新たな治療法や睡眠生理について共同研究を行なっています。
顎治にて多くのことを学びました。勿論、嚥下・睡眠・言語・ドライマウスの知識・技術はいうまでもありません。そのような中、最も活かされている学びは、自力で切り開く、開拓力であると思っています。顎治では、臨床・研究問わず、気付き・考察・実行のプロセスを自ら行うことを学びました。また、新しいことへ挑戦する開拓者精神も同時に学びました。開拓の精神と実行力。この二つは、カナダ留学、大阪歯科大学など異なる職場環境に身を置き、自らの力で道を切り開く際に、最も効果を発揮しました。現在の自分を支えています。
超高齢社会への突入、団塊の世代が後期高齢者になる2025年問題、AI時代の到来によるシンギュラリティ。今後、日本の医療は激動の時代を迎えます。間違いなく、この10年は増加する要介護高齢者への歯科医療が必要とされます。顎治の専門性が思う存分に活かされます。そしてその後は、僕が進路を悩んでいた時期の「コンビニより多い歯科医院」時代は懐かしい遥か昔のこととなり、AIによって大多数の医者・歯医者が不要の時代が来るかもしれません。これまでとは全く異なる、新しい歯科医療を確立する必要があります。そのような激動の時代には、顎治で学ぶ開拓の精神と実行力が威力を発揮すると思います。
どうか、進路を悩む際には、既存の歯科技術・知識をどう習得するか?ではなく、激動の時代に求められる新しい歯科医療とは何か?を考えて下さい。顎治では、新時代を生き抜く、知識と技術を学べます。顎治のOBからのメッセージをご覧ください。各先生方が、大学、海外、歯科医師会、地域、様々な場の最前線で活躍されていることが何よりの証拠です。顎治での学びは、きっと貴方の力になるはずです。