English

Treatment

口唇裂・口蓋裂の一貫治療

口唇裂・口蓋裂には、成長の過程で様々な問題がでてきます。
それぞれを適切な時期に介入・治療することで、できるだけ成長に及ぼす影響を少なくできます。本院は、全国でも珍しい歯学部単科病院です。それゆえ、いろんな専門分野を持つことができ、他病院にはない多様性もあります。各科の専門家がそれぞれの立場からベストな治療を提供することができます。

また、さらによりより治療を目指して日々研究も進めています。年齢的に手術が負担となる時期もあるかもしれません。
しかし、周囲の方に愛情もって育てられた子供たちは、成人したときには心身ともに自信をもって世の中に出ていくことができるでしょう。私たちはそのお手伝いができるよう、日々精進していきます。

  • 唇裂
  • 唇裂口蓋裂
  • 口蓋裂
出生
初診
哺乳指導
印象採得*
ホッツ床着装*
3〜6ヶ月
口唇形成術
1歳
口蓋形成術(軟口蓋閉鎖)
顎口腔機能治療部での言語管理開始*
小児歯科でのむし歯治療・予防*
1歳6ヶ月
口蓋形成術(硬口蓋前方閉鎖)
2歳
3歳
言語訓練開始*
4歳
矯正歯科での歯列矯正治療
5歳以降
顎裂部への骨移植
6歳
口唇・外鼻の就学前修正手術*
小学校入学
15歳以降
口唇・外鼻・顎の修正手術
18歳以降
外科矯正手術*
19歳ごろ
咽頭弁移植術*
補綴科での欠損歯の補綴治療*
治療終了

*…必要に応じて工程を行います。

口唇口蓋裂による問題

口唇口蓋裂によってもたらされる問題点は以下のようなものです。これらの問題点を克服するために適切な時期に適切な治療を行っていくことになります。

  • 1
    哺乳力の低下
  • 2
    審美的問題
  • 3
    言語(げんご)障害(しょうがい)
    (言葉の発音の障害)
  • 4
    上顎(上あご)の発育障害
  • 5
    歯並びの不正
  • 6
    滲出性(しんしゅつせい)中耳炎(ちゅうじえん)

1 哺乳力の低下

赤ちゃんが乳首を捕らえミルクを吸い出すには、くちびる、上あご、下あご、舌などを協調的に働かせて、乳首を圧迫する動作と、口の中に陰圧を形成して吸綴 ( きゅうてつ ) (乳首を吸う動作)する動作を交互に繰り返さなけれ ばなりません。

口唇口蓋裂のお子様の場合、上あごが割れているため乳首を圧迫しにくく、口の中の圧を陰圧にしようと思っても鼻から空気が入ってきてしまい乳首を吸う力が非常に弱くなってしまいます。いろいろな手助けをおこなう必要がありますが、その手助けとして、われわれはホッツ型プレートと口蓋裂用の乳首(チュチュ口蓋裂用乳首、ピジョンP型乳首など)を使うことをお勧めしております。ホッツ型プレートとは、上あごの割れているところを覆 う入れ歯のような装置で、成長にあわせて調整や作り替えをし、1歳ごろまで入れ続けます。このプレートは哺乳の手助けをすると共に、上あごの成長を調整して、より良い上あごの形を作る効果もあります。

また、最近ではNAM型プレートによって、鼻や口唇の変形を手術前に少しでも治す治療も開発され、本センターでも採用しています。

じょうずに飲めるようになるまで、数週間かかることもありますが、自信を持って根気強くがんばりましょう。空気を飲み込みやすいので、やや立てた姿勢で抱いて、時々おなかの張り具合を確認しながら授乳させます。おなかが張ってきたなら一時休憩して“げっぷ”をさせましょう。1回あたりの授乳時間は20分以内が目安です。可能なら搾乳して母乳を与えて下さい。直接母乳での授乳については、ミルクを吸出しにくいためそれだけで十分な栄養をとることは難しいのですが、母子接触の意味合いで行うことは差し支えありません。授乳の後はプレートを口の中から取り出して流水できれいに洗ってください。なお、プレートの調整のため1歳ごろまで1~2週間に1度ほど来院していただく必要があります。

ホッツ型プレート

ホッツ型プレート

NAM型プレート

NAM型プレート

プレートを装着した際の効果

NAM型プレート

鼻や口周りの歪みが軽減しました。

NAM型プレート NAM型プレート NAM型プレート
ホッツ型プレート

骨の形が整って
きれいなアーチ型になりました。

ホッツ型プレート ホッツ型プレート ホッツ型プレート

2 審美的問題

これは口唇に裂がある場合に問題となりますが、近年では医療の進歩によって、くちびると鼻は、裂があったことがほとんどわからないくらいに きれいに治ります。

一刻も早く手術を希望されるご両親のお気持ちも承知しておりますが、全身麻酔に対する安全性や術後の経過のことを考慮すると唇の筋肉などの組織が十分に大きくなってからの方がよりきれいな手術を行うことができます。

3 鼻咽腔機能と言語障害

鼻咽腔とは軟口蓋(口蓋の後ろのやわらかい部分)と咽頭の後壁(のどの奥)で構成されている部分のことで、のどから鼻、鼻からのどへの空 気の出入り口となる部分です。言葉を発音する時及び食べ物を飲み込む時にはこの口と鼻の出入り口を閉じる動作が必要となります。これを 鼻咽腔(びいんくう)閉鎖(へいさ)機能と呼びます。

鼻咽腔周囲の構成

鼻咽腔周囲の構成

鼻咽腔閉鎖を必要とする発音の例

鼻咽腔閉鎖を必要とする発音の例

口蓋裂の手術の時は、左右の口蓋を縫い合わせるのですが、このとき軟口蓋を十分に長くし、筋肉の走行を正常にもどしてあげることが、手術の重要なポイントになります。正常な形態に戻った軟口蓋は、その後自然に動きがよくなり働きも正常になります。

しかし、術後しばらくは正常に機能させるための発音の基礎練習が必要です。また、のどの奥の筋肉の発達が非常に悪かったりした場合などでは、「パ」や「カ」などの先程述べた鼻咽腔が閉じなければならない音(鼻もれしてはいけない音)などに障害が生じてくることがありますが、手術後の言語治療や咽頭弁移植術など専門的な目でそれぞれのお子様に適切な処置をおこなえば、ほとんどのお子様は言語に問題を残すことなく治療を終えることができます。

4 上あごの発育障害

鼻咽腔とは軟口蓋(口蓋の後ろのやわらかい部分)と咽頭の後壁(のどの奥)で構成されている部分のことで、のどから鼻、鼻からのどへの空 気の出入り口となる部分です。言葉を発音する時及び食べ物を飲み込む時にはこの口と鼻の出入り口を閉じる動作が必要となります。これを 鼻咽腔(びいんくう)閉鎖(へいさ)機能と呼びます。

最近は口蓋裂の手術方法の改良により以前ほど著しい上あごの発育障害はみられなくなりましたが、それでも、少しでも満足な治療をめざして矯正治療をおこなっています。

5 歯並びの不正

④で述べた上あごの発育障害とも関係があるのですが、口唇口蓋裂のお子様の場合には高い頻度で歯並びの不正が出現します。 歯がはえる歯茎(歯槽)の部分に裂がある場合にはだいたい8歳前後でその部分に腰骨を入れる手術を行います。

この手術と上述した矯正治療によって、ほとんどの患者さんは永久歯がはえそろう15~16歳前後にはほぼ満足のいく歯並びとなります。

6 滲出性中耳炎

口蓋裂のお子様に中耳炎(浸出性中耳炎)が発生しやすいことは古くから知られています。 原因は断定できませんが、軟口蓋にある耳管(耳と口をつないでいる管)の調節をおこなっている筋肉(口蓋帆張筋こうがいはんちょうきん )の機能が傷害されていることが原因のひとつと考えられています。

大人と子供では耳と鼻をつなぐ耳管(じかん)の構造が違うのも子供が中耳炎になりやすい理由です。大人は鼻から耳に向かって上り坂になっていますが、子供の耳管は太く短く水平なため、鼻の中の細菌やウイルスが耳に侵入しやすく、大人より簡単に感染を起こしてしまうのです。よって、幼児期は口蓋裂で中耳炎になりやすくても、小学校中学年くらいから徐々に落ち着いてきます。しかし、中耳炎を放っておくと難聴になることがありますので、中耳炎の症状(みみだれや発熱)がみられた場合、早期の耳鼻科での治療が必要です。

大人の耳管

大人の耳管

子供の耳管

子供の耳管

口唇口蓋裂の外科治療

くちびるの手術口唇形成術

口唇裂といっても片側だけのもの(片側性)、赤唇(赤いくちびる)から鼻孔(鼻の穴)までわれているもの(完全裂)、両側がわれているもの(両側性)、口唇裂だけで口蓋裂を伴わないものなど患者さんによって様々な裂のパターンが見られることは説明いたしました。いずれの場合でも、裂による筋肉(口輪筋 ( こうりんきん ) )の偏位を立て直し、くちびるや鼻を機能の面でも形の上でも正常な状態にすることが手術の目的となります。したがってただ単に左右のくちびるをくっつけるのではなく、筋肉の方向や組織のずれの方向をよく考えて切開を行わなければなりません。そのため、手術の切開線は複雑になります。現在では、技術や材料が随分進歩したため、傷跡はあまり残らないようになりました。くちびると鼻の形もほとんど自然に近い形が得られるようになりました。

くちびるの手術口唇形成術

手術前

くちびるの手術口唇形成術

縫合後

くちびるの手術口唇形成術

手術後

手術を行う時期ですが、生後すぐにという考え方もあるのですが、ある程度体が大きくなって、くちびるの筋肉もしっかりしてからの方が手術を安全に確実に丁寧に行うことが出来ます。そのため当科では、片側裂の患者さんの場合は生後2~3ヵ月で手術を行っています。両側性の患者さんの場合は片側ずつ2回にわけて行う場合と、両側を同時に1度に行う場合とがありますが、個々のお子様に応じて最も適当な手術方法が選択されます。手術時期は、片側ずつの場合は1回目を生後2~3ヵ月、2回目を5~6ヵ月で行い、両側同時に行う場合には生後2~4ヵ月で手術を行うようにしています。それまでの間は、ホッツプレートを調整して、上あごの形をできるだけ手術しやすいような状態に調節していきます。それぞれの患者さんによって最適な治療方法は少しずつ変わることもあるため、手術前の診察で最も適切な時期に、また最も適切な方法で手術が行えるように配慮しています。なお手術は全身麻酔で行い、入院に必要な期間は10日~2週間程度です。

退院後は、くちびるの傷あとに貼るテープの交換とレチナとよばれるシリコン製の鼻栓はなせんの装着をしていただきます。これは手術直後の後戻りによる変形や、傷あとの 瘢痕形成(はんこんけいせい)を防止するために、術後から3~4ヵ月の間は行っていただく必要があります。ただし患者さんによって傷あとの治り方は違いますので、入院の時の受け持ち医師や、外来での診察医師の注意に十分耳を傾けて下さい。

口蓋の手術

口蓋裂によって様々な問題が生じることは先程詳しくお話しました。このような問題を解消するため口蓋形成術を行うのですが、この手術の目的は、単に裂を閉鎖するだけではなく、断裂した軟口蓋の筋肉(口蓋(こうがい)帆挙筋(はんきょきん))を縫い合わせて正常な状態に戻し、広がった鼻咽(びいん)腔(くう)を小さくすることを主眼にしています。

口蓋裂の手術は、あまり早い時期に行うと、上あごの発育を障害します。かといって手術の時期を遅らせすぎると、異常な発音のくせ(異常(いじょう)構音こうおん)がついてしまいます。そのため当科では、この両方を最大限に満たす時期、つまり赤ちゃんが活発な発音運動を始める前で、なおかつ、できるだけ上あごの発育に影響の少ない時期として、およそ1歳前後に手術を行っています。ただし実際にはその時の赤ちゃんの状態によって少しずつ変わることもあります。

また、1回で口蓋の手術を終える場合と、2回にわけて手術を行う場合があります。手術を2回に分けるのは、できるだけ上あごの発育を良くするためなのですが、口の中の状態によって最適な方法がかわってくるので、手術前の診察でいずれの方法が良いかを判断します。2回法の場合でもおよそ1歳前後に1回目の口蓋形成術( 軟口蓋(なんこうがい)形成を行い、約1歳6ヵ月から2歳前後に2回目の手術硬口蓋(こうこうがい)閉鎖を行います。手術は全身麻酔で行い、入院期間は約2週間となります。

手術の方法については、私共では裂の幅、軟口蓋の長さや筋肉の発達状態などから次に述べる2つの手術方法の中から個々の患者さんに最良な手術方法を選択しています。

いずれの手術法においても、手術によって一部上あごの骨が露出する部分が生じるので、この部分に新しい粘膜ができるまでセルロイド製のカバーで上あご全体を覆い、傷あとの保護を行います。装着期間は約1週間です。退院後もしばらくは柔らかめの食事をして下さい。おおむね術後4週間程度で手術前と同じ食事に戻していただくことができます。

また、この時期の乳児はなんでも口に入れたがる時期ですので、細い突起物(ボールぺン、箸など)を口の中に入れないように注意しておいて下さい(手術後3ヵ月前後までは特に注意して下さい)。

言語訓練については、入院中に当病院の顎口腔機能治療部を受診し、今後の治療について詳しい説明を受けて頂いております (詳しくは後述しております)。

1. プッシュバック法

裂を閉鎖し、軟口蓋を後方へ移動するために、上あごの粘膜を骨から外して、その粘膜ごと軟口蓋を移動する手術です。

プッシュバック法
プッシュバック法

2. ファロー法

プッシュバック法とは違い、上あごの粘膜は後ろに下げないで、軟口蓋にZ型の切開を加えて軟口蓋を後方へ延長する手術法です。また軟口蓋の閉鎖と硬口蓋の閉鎖を2回に分けて行います(2回法:1回目、約1歳前後、2回目、約2歳前後)。この手術方法では、硬口蓋の部分の裂の手術時期を少しでも遅らせているため、手術による上あごの成長障害は小さくなります。残っている部分は言葉の発音への影響を考え1歳6ヵ月から2歳前後に閉鎖します。

ファロー法
ファロー法
口蓋裂手術前

口蓋裂手術前

軟口蓋と硬口蓋後方閉鎖後

軟口蓋と硬口蓋後方閉鎖後

硬口蓋前方閉鎖後

硬口蓋前方閉鎖後

就学前の修正手術

口唇形成術のあとに白唇部(はくしんぶ)(赤いくちびると鼻の間のくちびる)の傷あとが目立ったり、赤唇部の形が不整であったり、また、鼻の変形が気になるような場合には就学前に修正手術を行っています。この時期は鼻や上あごの成長時期ですので、大がかりな手術をすると、顔面の成長に影響をおよぼす可能性があるため、比較的小さな手術のみ行っています。

大がかりな手術(たとえば、耳の軟骨の移植による鼻の形成など)は患者さんの成長発育がほぼ完了した時期(14~18歳)以降におこないます。

歯槽部(顎裂部(がくれつぶ))への骨移植術と
残遺孔(ざんいこう)(口蓋形成術後に残った上あごの孔)閉鎖術

上あごの歯槽(しそうぶ)(歯が並ぶいわゆる歯茎のところ)の骨は、歯が並ぶだけでなく鼻の土台にもなっています。そのため、歯槽部に裂が見られた患者さんではどうしても小鼻鼻翼(びよく)の付け根が落ち込んだようになります。また、歯の土台となる骨がないために前歯の萌出が期待できず、矯正治療による歯の移動もできません。このような問題を解決するために当科では、およそ8歳前後に、この部分へ腰骨腸骨(ちょうこつ)から採取した骨髄の移植する手術を行っています。

歯槽部に及ぶ口蓋裂が見られた患者さんの場合、歯槽部は口蓋形成術時に粘膜のみで閉鎖されます。しかしながら、裂の幅が非常に大きい場合は歯槽部の完全な閉鎖が困難なこともあり、手術後歯槽部を中心に鼻腔とつながる小さな孔(残違孔)が残ってしまうことがあります。また、手術後に孔がなくても、矯正治療で上あごの横幅を拡大する治療を行うことで、歯槽部を中心に孔が形成されることもあります。この孔が大きい場合、口の中の水分が鼻に抜けたり、ストローが使いにくかったりといろいろな障害が生じます。発音の際も口の中に十分な空気がためられないため、発音が不明瞭になることもあります。そのため私共では、この穴を閉鎖する手術(残遺孔閉鎖術(ざんいこうへいさじゅつ))を先程述べました歯槽部への骨移植術とあわせておこない、このような問題を解消するようにしております。

歯槽部への骨移植の手術は、矯正科と相談の上、5歳以降の適切な時期に行います。骨は必要量に合わせて腸骨または下顎骨のオトガイ部から採取します。この海綿骨は骨の内部に存在するシャーベット状の骨で、採取するため外側の硬い骨(皮質骨)を一部取り外しますが、採取後に硬い骨は元に戻すため腸骨の変形はほとんどありません。腸骨から採取した場合も術翌日~3日間以内に歩行可能です。オトガイ部は下顎前歯の永久歯への交換が終了していなければ、採取できません。

なお、口蓋の穴が大きい場合は穴を閉鎖するために、舌の粘膜を移植する場合があります舌弁移植術(ぜつべんいしょくじゅつ)これらの手術により歯槽裂(顎裂)というものは完全になくなります。

残遺孔閉鎖術
残遺孔閉鎖術

外鼻(がいび)(鼻)の修正術(外鼻修正術)

片側裂の患者さんでは、鼻を形作る軟骨の成長の度合いが右と左で異なるため、体の成長と共にその差が目立つ時があります。また、両側裂の患者さんでは、鼻の中央部、特に鼻尖部(びせんぶ)(鼻のてっぺん)の発育が悪く、鼻が低くなる場合があります。私共では、このような外鼻の形態修手術を、外鼻軟骨の成長がほぼ完了した14歳以降(男女でこの時期は変わります)に行っております。

手術は、鼻の形を左右対称にすることを目的として、偏位した鼻の軟骨を整復することに主眼が置かれますが、著しい軟骨の発育障害が見られる場合には、耳介軟骨や下顎骨オトガイ部の骨の移植を行います。耳介の軟骨は耳の裏側から採取しますので傷あとは目立ちません。また、軟骨は窓状に採取するため、術後の耳の形が変わることはありません。
なお、一部の施設では、鼻の形成のためにシリコン移植を行っておりますが、当科では人工物を移植することによる悪影響を否定できないため、シリコンは使用しません。

手術後は形態の後戻りを防ぐため3~4ヵ月の間はシリコン製の鼻栓(レチナ)を装着していただく必要があります。

外鼻の修正術(外鼻修正術)
外鼻の修正術(外鼻修正術)
外鼻の修正術(外鼻修正術)

口唇の修正手術

お子さまが14~16歳となり、成長期を過ぎると、くちびるや鼻も子供の形から大人の形に変化し、ひずみが目立つようになることがあります。このような形のひずみが気になるような場合に、前述の外鼻の修正手術と同様に、くちびるの形を整える最終的な手術をこの時期に行います。

手術の方法は、患者さんによってまったく異なり、赤唇だけ修正する場合、白唇の瘢痕を修正する場合、外鼻形成術を併用して、くちびる全体を修正する場合等があります。小さな修正の場合は外来で行うこともありますが、比較的おおきな手術が必要な場合は入院のうえ全身麻酔下で手術を行います。手術後は赤ちゃんの時の口唇形成術術後と同じように傷あと目立たなくするためテープを貼っていただく場合があります。

また下くちびるの組織を上くちびるに移植する手術もあります(下口唇 ( かこうしん ) 翻転皮弁(ほんてんひべん)移植術(アベフラップ移植術)。この手術は両側性の口唇裂などで、上くちびるの成長発育がきわめて悪く、相対的に下くちびるが突出した患者さんや、傷あとの瘢痕形成が強い患者さんに行います。

口唇修正術

口唇修正術

手術前

口唇修正術

手術後

アベフラップ移植術

アベフラップ移植術
アベフラップ移植術

手術前

アベフラップ移植術

手術後

アベフラップ移植術

手術前

アベフラップ移植術

手術後

口唇口蓋裂の言語治療

ことばの問題

口蓋裂の方(術後も含めます)は、特有のことばの問題がでてくることがあります。その問題は大まかに、発音する時の

  • 1
    お口の使い方(操作)の問題
  • 2
    鼻に息や声が抜ける問題
  • 3
    その他:口蓋裂が原因でない問題
    (発達や難聴など)

に分けることができます。

それぞれ症状は様々ですが、特に①では、「特定の音が違う音に置き換わっている」、「しゃべり方が幼い」といった症状がみられます。また②では、「ことばが鼻に響いている」、「全体的にことばがはっきりしない」といった症状がみられることが多いです。
ただし問題の①~③のいずれであっても「ことばがはっきりしない」と感じられることがあります。

症状とその原因は、これらの問題の1つだけが関係している場合もあれば、複数の問題が絡んでいることもあり、人それぞれで異なります。そのため、ことばの問題はその原因を確認し、それぞれの原因に基づいた対応をとることが重要です。

顎治とのかかわり

1 最初のかかわり

当部との最初のかかわりは、1回目の上あごの手術(口蓋形成術)の術後から始まります。

当院では、多くの方が1歳前にこの手術が行われるため、まだことばが出ていないお子さんがほとんどです。この時期から関わり、ことばの発達を見守っていくことで、問題がでる方を早期に発見し、ことばの訓練や治療の必要性の有無を慎重に判断していきます。
またその際はご家族にもしっかりと説明を行います。

最初のかかわり

2 ことばの訓練

ことばの問題が上記の①や②にあてはまる場合、ことばの訓練(言語訓練)が必要になることがあります。訓練は主に言語聴覚士が担当し、正しいお口の使い方や発音の方法を一緒に練習します。また人によっては、お家で取り組んでいただく課題を出すこともあります。

開始時期や内容、頻度は患者さんごとに合わせて計画し行いますが、就学前4~5歳ごろから始めることが多く、練習の頻度は月に1、2回程度が目安です。

ことばの訓練

3 装置を用いた治療

ことばの問題が上記の②にあてはまる場合、上顎に穴が残った状態(残遺孔)か、のどちんこ(軟口蓋)の働きや長さに問題がある状態(鼻咽腔閉鎖不全:図1)のいずれかが考えられます。

残遺孔の場合は閉鎖床、鼻咽腔閉鎖不全の場合はスピーチエイド(図2)と呼ばれるつけ外し可能な装置を作製します。歯科医師が作製した装置をつけることでお口の形やのどちんこの働きを整えた状態で、言語聴覚士によることばの訓練を行います。

図1.鼻咽腔閉鎖機能不全
鼻咽腔閉鎖機能不全

発音時に多くの音では、軟口蓋(オレンジ)が持ち上がり、鼻とのどの間を閉じる。

鼻咽腔閉鎖機能不全

しかし、鼻咽腔閉鎖機能不全があると、軟口蓋が上手く動かず鼻へ音や息が漏れてしまい、不明瞭な発音となる。

図2.閉鎖床やスピーチエイドの例
閉鎖床やスピーチエイドの例

閉鎖床装置によって残遺孔を閉鎖し、息や音の鼻への漏れを防ぐ。

閉鎖床やスピーチエイドの例

スピーチエイドPLPという装置の例。上あごに装着することで軟口蓋を持ち上げる手助けをし、鼻咽腔閉鎖機能不全を改善させる。

4 手術による治療

しっかりとした発音にスピーチエイドが必要な方は、装置を使用するかわりに手術によってことばの症状を改善させる方法もあります。このスピーチエイドの代わりとなる手術は咽頭弁形成術(いんとうべんけいせいじゅつ)と呼ばれています。この手術自体は、いくつかの方法があり、実施される年齢も施設によって異なることがあります。
当院で実施している咽頭弁形成術は、のどの奥の成長が落ち着くのを待つため、体の成長が落ち着く高校生ぐらいの時期(やそれ以降)に行っています。ただし、矯正治療により上あごを手術的な方法で動かす予定のある方は、矯正の手術が終了してから行うことになります。

5 その他

ことばの問題が上記の③である場合、原因が異なるため、これまで説明してきた方法では症状の改善が難しくなります。その時は、地域の他施設と連携をとりながら必要なサポートが得られるようお手伝いします。

治療で心がけていること

ことばの問題は、その原因により症状の内容や程度がさまざまであり、本人の状態や周囲の環境などによって問題に対する取り組みの方法も大きく異なっていきます。そのため当部では、必要に応じて患者さんの現状や今後の見通しをしっかりと説明し、患者さん自身やご家族のご希望を踏まえた上で訓練や治療を進めていくよう心がけています。

治療に関して、何か不明な点や不安な点などありましたらいつでもご相談ください。

治療で心がけていること

口唇口蓋裂の矯正治療

なぜ矯正治療が必要なのか

口唇口蓋裂のお子さんでは、手術の影響で上あごの成長が十分でなく、受け口(前歯部反対咬合)や奥歯の噛み合わせが反対(臼歯部交叉咬合)になる場合があります。また歯の数の不足や、個々の歯の位置の乱れを認める場合もあります。

このため歯並びや咬み合わせ、顔立ちに影響がみられ、歯科矯正治療により歯を動かしたり、あごの成長を助けたりする必要のある方がほとんどです。治療は一人ひとりのお子さんの症状に合わせ、時期を見計らって進めていきます。

なぜ矯正治療が必要なのか

上あごの成長が少ない場合、
中顔面の陥凹感があります

なぜ矯正治療が必要なのか

主な治療の流れ

1 矯正科初診および検査4~5歳頃

矯正科を初診受診したら、まずは検査を行います。矯正科の検査では、口腔内写真、顔写真、印象採得、ロ腔内スキャン、レントゲン撮影、CT撮影、および3dMDなどを行います。

当科では、これらの検査資料をもとに、患者様一人一人に合った矯正歯科治療計画を立案しております。口唇口蓋裂チームでの合同カンファレンスも行った上で、より顎顔面口腔機能や顔貌の回復ができるよう、丁寧な治療計画の立案を心がけています。

3dMDを用いた顔・頭部の撮影、3次元データ解析

3dMDを用いた顔・頭部の撮影、3次元データ解析

CTと3次元顔画像の重ね合わせ

CTと3次元顔画像の重ね合わせ

口腔内スキャン

口腔内スキャン

2 診断

検査・分析の結果や今後の治療計画について説明します。診断後は、患者様ご本人およびご家族と相談し、治療方針を決定し、同意の上で、治療を開始します。

診断

3 成長期のお子さんの矯正治療あごの骨の成長をコントロールする矯正治療

上あごの横幅を拡げる治療

上あごの成長障害により上あごの横幅が狭いと、奥歯の咬み合わせが反対になったり、歯並びががたがたになったりします。このため、上あごの横幅を矯正装置により拡げる必要があります。上あごの横幅が拡がるとともに残遺孔も大きくなり、飲み物が鼻に抜けたりストローで飲み物を吸えなくなったりすることがあります。この場合、顎口腔機能治療部と連携して矯正装置に残遺孔を塞ぐような工夫を施します。

治療前

治療前

歯列の拡大

歯列の拡大

クワドヘリックス装置

受け口を改善する治療

上あごの成長障害により受け口となっているお子さんには、上顎骨前方牽引装置(プロトラクター)と呼ばれる矯正装置を用いて、上あごの前方への成長を助ける治療を行います。

また、上の前歯が後ろに傾いて受け口になっている場合は、リンガルアーチと呼ばれる矯正装置により、上の前歯を前方へ傾斜移動させます。

上顎前方牽引装置(プロトラクター)

上顎前方牽引装置(プロトラクター)

上あごの成長を助ける装置。
お家にいる間に装置をつけます。

リンガルアーチ装置

リンガルアーチ装置

ばねの力を利用して、歯を前方傾斜させたり、
歯の捻れを改善します。

顎裂部骨移植術

乳幼児期に口唇裂や口蓋裂の手術を行うと裂は無くなったようにみえますが、骨の中(歯槽部)に裂隙(顎裂)は残っています。顎裂の部分には歯を並べることができないため、この部分に骨を埋める手術が必要となります。

顎裂部に埋める骨は、オトガイ部の骨あるいは腰骨(腸骨)から採取します。手術の時期は通常、犬歯が生える前の8~10歳頃を目安にしていますが、移植に必要な骨の量や採取する部位、歯の生えかわりや歯科矯正治療の進行状況、体格などに応じて、お子さんごとに時期を決定しています。

顎裂部骨移植術

4 成長が終了した段階の矯正治療最終的な咬み合わせを目標にした矯正治療:永久歯列完成後、下顎骨成長終了頃

マルチブラケット装置を用いた矯正治療

咬み合わせの変化はあごの成長が終わる16~18歳まで続きます。従って、早くから治療を始めて一度良い咬み合わせになっても、あごの成長により再び悪くなることもしばしばあります。

永久歯が生えそろい、あごの成長と咬み合わせの変化が終了すると、最終的な咬み合わせを目標にマルチブラケット装置を用いた矯正治療を開始します。

装置を用いた治療
外科手術を伴う矯正治療
(外科的矯正治療)

成長終了後も上下のあごの骨の位置関係に著しい不調和が認められる場合は、手術によりあごの骨のバランスを整える必要があります。

外科的矯正治療の一般的な流れ
  1. 術前矯正治療

    手術後の咬み合わせを想定して、上下の歯並びを改善します。

  2. あごの骨切り術

    上下の歯並びが咬み合うように手術で骨を移動させて、金属のプレートで固定します。咬み合わせが安定するよう上下の歯並びをワイヤーあるいはゴムで固定します(顎間固定)。

  3. 術後矯正治療

    咬み合わせの仕上げの治療を行います。

外科的矯正治療

外科的矯正治療

左:治療前 中:手術直前 右:治療後

外科的矯正手術後の顔貌

外科的矯正手術後の顔貌

左:術前 右:術後

骨格的な受け口を改善する手術の方法
  • 上顎骨切り術

    後退した上あごの骨を前方移動します。

  • 下顎骨切り術

    下あごの骨を後退させます。

  • 上下顎同時骨切り術

    上顎骨骨切り術と下顎骨骨切り術を同時に行います。

  • 上顎骨仮骨延長術

    スピーチの機能を考慮した上あごの手術法です。上顎骨切り術により上あごの骨全体を前方に移動させると、喉の奥が広くなり鼻咽腔閉鎖機能が低下してスピーチに問題が生じる場合があります。この問題をできるだけ回避するために、上あごの骨を前方へ延ばす手術方法です。

下顎骨骨切り術

下顎骨骨切り術 SSRO法

SSRO法

下顎骨骨切り術 IVRO法

IVRO法

上下骨切り術

上下骨切り術 上顎骨切り + SSRO法

上顎骨切り + SSRO法

上下骨切り術 分割上顎骨切り + SSRO法 + オトガイ形成

分割上顎骨切り + SSRO法 +
オトガイ形成

  • 上顎骨前方部仮骨延長術(MASDO)

    上顎骨の成長抑制が原因で、正常な下顎骨に対して相対的な骨格性下顎前突を示す症例に対して、当院ではMASDOという手術を行ってきました。発音機能に影響を及ぼさずに上顎骨を前後的に伸展させることで、良好なかみあわせを獲得するとともに、バランスの取れた横顔のプロポーションが得られます。

上顎骨前方部仮骨延長術(MASDO)

手術で延長器を埋入します

MASDOは当院口腔外科1で開発された新しい治療法です。

保定

矯正された歯やあごの後戻りを防ぐために保定装置(歯並びが乱れないように維持する装置)を装着し、年に3~4度、歯並びと咬み合わせのチェックを行います。また、歯の無い部分があれば、インプラントやブリッジ、入れ歯などを入れます(補綴治療)。

保定

チームアプローチの必要性

口唇口蓋裂がある場合、言語治療、顎裂部への骨移植、外科的矯正治療、補綴治療、虫歯治療などが行われるため、各科が連携をとって治療にあたります。

治療費について

矯正治療は通常自費診療ですが、口唇口蓋裂のお子さんに対する治療は、本院や指定された矯正歯科医院では、健康保険が適用されます。また育成医療等の公費補助によって自己負担金が一定額以上、免除される制度もあります。担当医にお尋ねください。

口唇口蓋裂のお子さんの
お口の衛生管理

小児歯科では、小児期のお口の衛生管理を徹底すること、特にむし歯を予防することを念頭に置いています。また、できてしまったむし歯に対しては、その進行を抑制するとともに、できるだけ速やかに治療を行うことに力を注いでいます。

お口の衛生管理

「歯の健康の話」をスライドを使って説明

お口の衛生管理

保護者への食事指導

これまでの調査結果から、口唇口蓋裂の治療のため通院されているお子さんは、むし歯になりやすいことが分かっています。特に、裂部の近くに生えてくる上の前歯がむし歯になりやすく、前歯が生えてきた頃からむし歯予防について十分に考えていく必要があります。

そこで、小児歯科では担当歯科医師および歯科衛生士による歯磨き指導に力を入れています。特にむし歯になりやすい上の前歯の磨き方のポイントを以下に示します。

裂部に接する上の前歯のむし歯の一例

裂部に接する上の前歯のむし歯の一例

  • 1
    歯ブラシの毛先が歯ぐきなどの柔らかい部分に当たらないように意識する。
  • 2
    上の前歯の唇側を磨く時は、人差し指をやや横側から入れ、指の腹全体を使って上唇を持ち上げる。
  • 3
    特に磨きにくい上の前歯の裏側は、ブラシ部分が小さく、ピンポイントで磨くことが可能なワンタフトブラシを使う。
ワンタフトブラシ

ワンタフトブラシ

口唇口蓋裂の治療のため通院されている4歳のお子さんのむし歯の割合

口唇口蓋裂の治療のため通院されているお子さんでは、裂部の近くに生える上の前歯がむし歯になりやすいのですが、それ以外に下の奥歯もむし歯になりやすいことが明らかになっています。そのため、裂部を含め口の中の全体の歯を十分に注意していく必要があります。

一般的に乳歯の時にむし歯が多いお子さんは、永久歯に生えかわってもむし歯が多くなることが知られています。これは、幼少期にお口の中のむし歯菌の数が決まってしまうことが一因とされています。

また、矯正治療が始まりお口の中に矯正装置が入ると、清掃が難しくなるためさらにむし歯になりやすい環境になります。そこで、永久歯が生え始める時期までに健康なお口の状態をつくっておくことが、その後のためにも非常に重要になってきます。

乳歯

乳歯は A B C D E のアルファベットで示します。
例えば、右上のA とか左下のD のように言います。

むし歯の割合

むし歯の割合

お子さんのお口の状態によって個人差がありますが、3〜4か月ごとに定期検診を行っています。

定期健診では、以下の内容を行います。

  • むし歯のチェック

    定期的に受診していただくことで、むし歯を早期発見することができ、早期に対応していくことが可能です。

  • 歯磨き指導

    お子さん一人ひとりの年齢とお口の状況に応じた歯磨き指導を行います。適切な歯ブラシの選び方、裂部に生えている歯の磨き方に重点を当てて指導します。また、年齢が上がると自分で歯磨きができるようにするため、お子さん自身に指導を行なっています。

  • 食事指導・間食指導

    お子さんの年齢やお口の状況に応じて食事指導や間食の摂り方の指導を行います。

ご希望に応じて、フッ素塗布フィッシャーシーラントなどのむし歯の予防処置を行います。

小児歯科への受診をご希望される方は、口唇裂・口蓋裂・口腔顔面成育治療センターから小児歯科への院内紹介を受けてください。
その後も定期的に小児歯科への通院をご希望される方は「親子のむし歯予防教室」の予約をお取りします。

予約の際に、アンケート、食事カード、歯の健康手帳をお渡しいたします。

「親子のむし歯予防教室」開催日(2021年度)

9:00~、10:30~
9:00~、10:30~
9:00~、10:30~、13:00~、14:30~
9:00~、10:30~

「親子のむし歯予防教室」では、

  • お口の中やお体の状態の聞き取り
  • 歯磨き指導・食事指導の実施
  • 診査をして治療方針を決定
  • 担当医の決定

を行います。(全部で1時間〜1時間半程度です。)

それ以降は、担当医と予約をとっていただき、むし歯治療・予防処置・定期検診を行っていきます。何かご質問等ございましたら、お気軽に受付までお問い合わせください。