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口唇口蓋裂による問題
口唇口蓋裂によってもたらされる問題点は以下のようなものです。これらの問題点を克服するために適切な時期に適切な治療を行っていくことになります。
- 哺乳力の低下
- 審美的問題
- 言語(げんご)障害(しょうがい)
(言葉の発音の障害) - 上顎(じょうがく)(上あご)の発育障害
- 歯並びの不正
- 滲出性(しんしゅつせい)中耳炎(ちゅうじえん)
1. 哺乳力の低下
赤ちゃんが乳首を捕らえミルクを吸い出すには、くちびる、上あご、下あご、舌などを協調的に働かせて、乳首を圧迫する動作と、口の中に陰圧を形成して吸綴 ( きゅうてつ ) (乳首を吸う動作)する動作を交互に繰り返さなけれ ばなりません。
口唇口蓋裂のお子様の場合、上あごが割れているため乳首を圧迫しにくく、口の中の圧を陰圧にしようと思っても鼻から空気が入ってきてしまい乳首を吸う力が非常に弱くなってしまいます。いろいろな手助けをおこなう必要がありますが、その手助けとして、われわれはホッツ型プレートと口蓋裂用の乳首(チュチュ口蓋裂用乳首、ピジョンP型乳首など)を使うことをお勧めしております。ホッツ型プレートとは、上あごの割れているところを覆 う入れ歯のような装置で、成長にあわせて調整や作り替えをし、1歳ごろまで入れ続けます。このプレートは哺乳の手助けをすると共に、上あごの成長を調整して、より良い上あごの形を作る効果もあります。
じょうずに飲めるようになるまで、数週間かかることもありますが、自信を持って根気強くがんばりましょう。空気を飲み込みやすいので、やや立てた姿勢で抱いて、時々おなかの張り具合を確認しながら授乳させます。おなかが張ってきたなら一時休憩して“げっぷ”をさせましょう。1回あたりの授乳時間は20分以内が目安です。可能なら搾乳して母乳を与えて下さい。直接母乳での授乳については、ミルクを吸出しにくいためそれだけで十分な栄養をとることは難しいのですが、母子接触の意味合いで行うことは差し支えありません。授乳の後はプレートを口の中から取り出して流水できれいに洗ってください。なお、プレートの調整のため1歳ごろまで1~2週間に1度ほど来院していただく必要があります。
2. 審美的問題
これは口唇に裂がある場合に問題となりますが、近年では医療の進歩によって、くちびると鼻は、裂があったことがほとんどわからないくらいに きれいに治ります。手術は生後3ヶ月くらいを目度に行います。一刻も早く手術を希望されるご両親のお気持ちも承知しておりますが、全身麻酔に対する安全性や術後の経過のことを考慮すると唇の筋肉などの組織が十分に大きくなってからの方がよりきれいな手術を行うことができます。
3. 鼻咽腔機能と言語障害
鼻咽腔とは軟口蓋(口蓋の後ろのやわらかい部分)と咽頭の後壁(のどの奥)で構成されている部分のことで、のどから鼻、鼻からのどへの空 気の出入り口となる部分です。言葉を発音する時及び食べ物を飲み込む時にはこの口と鼻の出入り口を閉じる動作が必要となります。これを 鼻咽腔(びいんくう)閉鎖(へいさ)機能と呼びます。
口蓋裂の手術の時は、左右の口蓋を縫い合わせるのですが、このとき軟口蓋を十分に長くし、筋肉の走行を正常にもどしてあげることが、手術の重要なポイントになります。正常な形態に戻った軟口蓋は、その後自然に動きがよくなり働きも正常になります。しかし、術後しばらくは正常に機能させるための発音の基礎練習が必要です。また、のどの奥の筋肉の発達が非常に悪かったりした場合などでは、「パ」や「カ」などの先程述べた鼻咽腔が閉じなければならない音(鼻もれしてはいけない音)などに障害が生じてくることがありますが、手術後の言語治療や咽頭弁移植術など専門的な目でそれぞれのお子様に適切な処置をおこなえば、ほとんどのお子様は言語に問題を残すことなく治療を終えることができます。
4. 上あごの発育障害
口蓋裂のお子様のあご、特に上あごの発達がほかのお子様に比べて遅れがちで、受け口になりやすくなります。
そこで“歯ならび”に異常が見られた場合や受け口気味の場合、早い時期からの矯正治療に取り組みます。
最近は口蓋裂の手術方法の改良により以前ほど著しい上あごの発育障害はみられなくなりましたが、それでも、少しでも満足な治療をめざして矯正治療をおこなっています。
5. 歯並びの不正
4. で述べた上あごの発育障害とも関係があるのですが、口唇口蓋裂のお子様の場合には高い頻度で歯並びの不正が出現します。
歯がはえる歯茎(歯槽)の部分に裂がある場合にはだいたい8歳前後でその部分に腰骨を入れる手術を行います。
この手術と上述した矯正治療によって、ほとんどの患者さんは永久歯がはえそろう15~16歳前後にはほぼ満足のいく歯並びとなります。
6. 滲出性中耳炎
口蓋裂のお子様に中耳炎(浸出性中耳炎)が発生しやすいことは古くから知られています。
原因は断定できませんが、軟口蓋にある耳管(耳と口をつないでいる管)の調節をおこなっている筋肉(口蓋帆張筋こうがいはんちょうきん )の機能が傷害されていることが原因のひとつと考えられています。
中耳炎を放っておくと難聴になることがありますので、中耳炎の症状(みみだれや発熱)がみられた場合、早期の耳鼻科での治療が必要です。