外来・診療スケジュール

口唇裂・口蓋裂外来

口唇口蓋裂の外科治療

4. 歯槽部(顎裂部 ( がくれつぶ ) )への骨移植術と 残遺孔(ざんいこう)(口蓋形成術後に残った上あごの孔)閉鎖術

上あごの歯槽 ( しそうぶ ) (歯が並ぶいわゆる歯茎のところ)の骨は、歯が並ぶだけでなく鼻の土台にもなっています。そのため、歯槽部に裂が見られた患者さんではどうしても小鼻鼻翼(びよく)の付け根が落ち込んだようになります。また、歯の土台となる骨がないために前歯の萌出が期待できず、矯正治療による歯の移動もできません。このような問題を解決するために当科では、およそ8歳前後に、この部分へ腰骨腸骨(ちょうこつ)から採取した骨髄の移植する手術を行っています。

歯槽部に及ぶ口蓋裂が見られた患者さんの場合、歯槽部は口蓋形成術時に粘膜のみで閉鎖されます。しかしながら、裂の幅が非常に大きい場合は歯槽部の完全な閉鎖が困難なこともあり、手術後歯槽部を中心に鼻腔とつながる小さな孔(残違孔)が残ってしまうことがあります。また、手術後に孔がなくても、矯正治療で上あごの横幅を拡大する治療を行うことで、歯槽部を中心に孔が形成されることもあります。この孔が大きい場合、口の中の水分が鼻に抜けたり、ストローが使いにくかったりといろいろな障害が生じます。発音の際も口の中に十分な空気がためられないため、発音が不明瞭になることもあります。そのため私共では、この穴を閉鎖する手術(残遺孔閉鎖術 ( ざんいこうへいさじゅつ ) )を先程述べました歯槽部への骨移植術とあわせておこない、このような問題を解消するようにしております。

歯槽部への骨移植の手術は、矯正治療での拡大治療が終了した後(8歳以降)におこなっております。腸骨から採取する骨は海綿骨のみです。この海綿骨は骨の内部に存在するシャーベット状の骨で、採取するため外側の硬い骨(皮質骨)を一部取り外しますが、採取後に硬い骨は元に戻すため腸骨の変形はほとんどありません。また、海綿骨の採取のため、腸骨についている足の筋肉の一部を一度はずすため、手術後4~7日はベッド上で安静を保っていただく必要があります。手術後2~3週間程度で手術前のように歩行できます。なお、口蓋の穴が大きい場合は穴を閉鎖するために、舌の粘膜を移植する場合があります舌弁移植術(ぜつべんいしょくじゅつ)これらの手術により歯槽裂(顎裂)というものは完全になくなります。

5. 外鼻 ( がいび ) (鼻)の修正術(外鼻修正術)

片側裂の患者さんでは、鼻を形作る軟骨の成長の度合いが右と左で異なるため、体の成長と共にその差が目立つ時があります。また、両側裂の患者さんでは、鼻の中央部、特に鼻尖部 ( びせんぶ ) (鼻のてっぺん)の発育が悪く、鼻が低くなる場合があります。私共では、このような外鼻の形態修手術を、外鼻軟骨の成長がほぼ完了した14歳以降(男女でこの時期は変わります)に行っております。

手術は、鼻の形を左右対称にすることを目的として、偏位した鼻の軟骨を整復することに主眼が置かれますが、著しい軟骨の発育障害が見られる場合には、耳介 ( じかい ) の軟骨を移植する手術を行います。耳介の軟骨は耳の裏側から採取しますので傷あとは目立ちません。また、軟骨は窓状に採取するため、術後の耳の形が変わることはありません。なお、一部の施設では、鼻の形成のためにシリコン移植を行っておりますが、当科では人工物を移植することによる悪影響を否定できないため、シリコンは使用しません。

手術後は形態の後戻りを防ぐため3~4ヵ月の間はシリコン製の鼻栓(レチナ)を装着していただく必要があります。

6. 口唇の修正手術

お子さまが14~16歳となり、成長期を過ぎると、くちびるや鼻も子供の形から大人の形に変化し、ひずみが目立つようになることがあります。このような形のひずみが気になるような場合に、前述の外鼻の修正手術と同様に、くちびるの形を整える最終的な手術をこの時期に行います。手術の方法は、患者さんによってまったく異なり、赤唇だけ修正する場合、白唇の瘢痕を修正する場合、外鼻形成術を併用して、くちびる全体を修正する場合等があります。小さな修正の場合は外来で行うこともありますが、比較的おおきな手術が必要な場合は入院のうえ全身麻酔下で手術を行います。手術後は赤ちゃんの時の口唇形成術術後と同じように傷あと目立たなくするためテープを貼っていただく場合があります。

また下くちびるの組織を上くちびるに移植する手術もあります(下口唇 ( かこうしん ) 翻転皮弁(ほんてんひべん)移植術(アベフラップ移植術)。この手術は両側性の口唇裂などで、上くちびるの成長発育がきわめて悪く、相対的に下くちびるが突出した患者さんや、傷あとの瘢痕形成が強い患者さんに行います。

7. 外科的矯正術

唇顎口蓋裂の患者さんの場合、上あごの成長が下あごの成長より遅くなるため、成長期の矯正治療でこのアンバランスを改善する必要があります。しかし、アンバランスが強くて矯正治療だけでは完全に改善しきれない場合には、手術によってあごの骨を移動し、望ましい咬み合わせにしたり、上下のあごの骨のバランスを整えることができます。この手術を(外科的矯正術 ( げかてききょうせいじゅつ ) といいます。この手術を正しく行うためには手術前と手術後の矯正学的な診断と治療が不可欠です。

手術は口の中から行います。あごの骨を分割した後、手術前に想定された理想的な咬み合わせの位置にあごの骨を移動し固定します。主に下あごの骨の移動を行いますが、場合によっては上あごのみ、あるいは上あごと下あごを同時に手術する場合もあります。手術翌日よりあごの骨の安定保持のため、上下の歯を金属のワイヤーで約3週間固定し、口が開かないようにします。したがってその間は流動食しか食べられません。

手術後も良い咬み合わせの維持とその仕上げのために、継続して矯正治療が必要です。

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