研究活動

歯周病菌と細胞メンブレントラフィック

メンブレントラフィックとは、細胞内の物質輸送ネットワークであり、細胞内外への物質輸送により免疫系などの高次生体機能を支えている。メンブレントラフィックの自然免疫機能としては、マクロファージによる細菌貪食がよく知られている。歯周病菌は、細胞メンブレントラフィック機構を利用して、細胞侵入と細胞からの脱出を行っている。歯周細胞も、対細菌戦の最前線として、メンブレントラフィックを利用して侵入細菌を分解している。

20世紀の細菌感染症の常識では、非貪食細胞内に侵入した細菌を排除・殺菌する宿主細胞の防御機構はエンドサイトーシス経路にのみ依存し、この経路を突破して細胞質に逃れた菌を殺す術はないとされていた。しかし、21世紀に入り我々は、細胞質に逃れた細胞内病原菌をオートファジー経路が捕獲・分解することを示した。オートファジーが生体防御機能をもつというこの画期的な発見以降、オートファジーと病原体に関する報告が相次ぎ、自然免疫・細胞生物研究に新たな分野が形成されつつある。

一方、人類史上・最も患者数の多い慢性感染症である歯周病の原因菌はオートファジーに抵抗性を示し、かつ細胞内外を行き来できる能力も兼ね備えている。細胞内での「細菌vsメンブレントラフィック」の戦いの様子を探り、細菌の駆逐と感染症の慢性化の分岐となる分子機能を明らかとする。本研究により、新たな細胞自然免疫機構の開拓と、感染菌の特性に対応するオーダーメイド感染症治療への道が開ける。

口腔細菌性バイオフィルム形成と菌体間相互作用の解明

デンタルバイオフィルム中では多数の細菌種が高密度で棲息しており、菌体間相互作用がその成熟過程において重要な役割を果たしている。歯周病菌のバイオフィルムへの定着機構を菌体間の相互作用に焦点を当て、研究を行っている。また、有力な歯周病菌であるPorphyromonas gingivalisバイオフィルム形成を阻害する阻害剤の開発を目指して研究を続けている。

歯周病菌の生活環を制御する分子機構の解明

プロテオミクス、メタボロミクス等を組み合わせたマルチオミクスの手法を駆使し、歯周病菌が口腔常在菌との相互作用を経て病原性バイオフィルムを形成する過程について、その分子機構の解明に取り組んでいる。また、一度バイオフィルムを形成した菌が再び浮遊状態に戻り、感染を拡大させるメカニズムについても、研究を進めている。

P. gingivalisがヒト歯肉上皮細胞の増殖/細胞周期の亢進を誘発する分子機構の解明

これまでの研究で、P. gingivalisがヒト歯肉上皮細胞に低い感染多重度で感染した場合、癌抑制遺伝子として知られる多機能分子p53の発現抑制がおこり、細胞周期の亢進とその結果としての細胞増殖を誘発することを見出した。これは、P. gingivalisが宿主上皮細胞中で生きながらえつつ、感染を拡大させる巧妙な戦略だと考えられ、その詳細な分子機構について更なる検討を加えている。

粘膜免疫システムの解明とそれを応用した粘膜ワクチンの開発

これまでに、粘膜免疫システムを応用した経鼻粘膜ワクチンの開発及びNALT(鼻咽頭関連リンパ組織)・BALT(気道関連リンパ組織)から誘導される分泌型IgAの研究を行ってきた。現在、歯周病原性の抗原などを樹状細胞に移入した細胞ワクチンを応用することで、抗歯周病免疫応答の誘導およびその機序の解明を進めている。

歯科疾患の予防戦略の開発と口腔状態と全身の健康に関する疫学研究

疫学的手法を用いて、歯科疾患のリスクを減少させ、全身の健康を維持・増進するための科学的根拠を明らかにすることを目的とする。研究成果を臨床・教育現場や地域社会への還元や歯科保健政策への提言に結びつける実践的な研究を目指している。

口腔疾患予防を目的とした機能性食品の開発

これまでの研究で、ユーカリ葉抽出物やビタミンCおよびEは、歯周組織の健康の保持・増進に働く可能性を示唆した。現在、歯周病予防および口臭予防を目的とする機能性食品の開発を目指して研究を行っている。
口腔保健用機能性食品研究会」のHP

糖アルコールの歯周病予防効果の検討

キシリトールに代表される糖アルコールは、う蝕予防に関する研究が多く報告されているが、歯周病予防に関する研究はほとんどない。そこで、歯周病菌や歯周病原性バイオフィルムに対する糖アルコールの効果の検討およびその作用機序の解明に、メタボロミクスやプロテオミクスといった手法を応用して、取り組んでいる。