研究活動

歯周病菌の生活環を制御する分子機構の解明

歯周病菌の生活環を制御する分子機構の解明

 デンタルプラークは多種の細菌から構成される混合菌種バイオフイルムであるが、その形成はまず Streptococcus gordonii などに代表されるグラム陽性の primary colonizer(初期付着菌)が歯面ペリクルに付着することから開始される。primary colonizer が歯面付着後に増殖し、バイオフイルム形成の第二段階であるマイクロコロニー形成に至ると、様々な菌体間相互作用を介して、主たる歯周病原性菌であると考えられている Porphyromonas gingivalisなどのグラム陰性嫌気性菌からなる late colonizer(後期付着菌)がバイオフイルムに取り込まれ、より複雑な混合菌種バイオフイルムのマクロコロニー形成が始まる。このようにして形成された歯周病原性プラーク中で,病原性菌は多種多様な口腔細菌と共に凝集塊を形成し,菌体外重合体物質 (EPS)に被われ棲息しているが、バイオフイルムの成熟に伴う空間と栄養状態の悪化に伴い、より良い環境を求め、EPSで守られた集落から積極的に乖離することが明らかとなってきた。プランクトニックな状態に戻った病原性菌は、新しい生育場所を目指すための移動を開始し、結果として感染を拡大させる。

バイオフイルム生活環

 我々は、初期付着菌S. gordoniiと後期付着菌P. gingivalisよりなる歯周病原性バイオフィルムモデルをin vitroで構築し、S. gordoniiのランダムノックアウトライブラリーをスクリーニングすることにより、これら2菌種よりなる混合バイオフィルム形成に必要なS. gordoniiの遺伝子群を明らかにした [Kuboniwa, M. et al. (2006) Mol Microbiol 60:121-139]。

Mol Microbiol

 さらに、中期付着菌Fusobacterium nucleatumを加えた3菌種混合培養条件下で培養したP. gingivalisの菌体構成タンパク質を、単一培養条件のものと包括的に定量比較することにより、混合バイオフィルム形成に関与しているP. gingivalis分子をタンパク質レベルで明らかにした。[Kuboniwa, M. et al. (2009) BMC Microbiol 9:98]

Sg-Fn-Pg Sg-Fn-Pg

 現在、S. gordoniiランダムノックアウトライブラリーのなかで最も顕著にP. gingivalisとの混合バイオフイルム形成能を失ったコリスミ酸結合性酵素変異株に着目し、プロテオミクス、メタボロミクス等を組み合わせたマルチオミクスの手法を駆使して、歯周病原性バイオフイルム形成の分子基盤解明に向けさらなる研究を推進している。[海外共同研究者:アメリカ合衆国ルイビル大学(University of Louisville) Richard J. Lamont 博士、アメリカ合衆国ワシントン大学(University of Washington) Murray Hackett 博士]
 さらに、歯周病原性菌がバイオフイルムからの乖離を経て再びプランクトニックな状態となり、感染拡大に至るまでの生活環がどのような分子基盤によって制御されているのかを明らかにするため、最先端のメタボローム解析技術を用いた共同研究に着手している。[共同研究者:大阪大学大学院工学研究科 福崎英一郎教授、冨尾紋子研究員]

その他参考文献 

Kuboniwa M, Amano A, et al. (2009)Distinct roles of long/short fimbriae 
and gingipains in homotypic biofilm development by Porphyromonas gingivalis
BMC Microbiol, 9:105 (E-pub, 13 pages) 

Kuboniwa M, Lamont RJ.(2011) Subgingival biofilm formation. Periodontology 
2000;52:38-52. 

Kuboniwa M, Lamont RJ. (2012)Chapter 21 "Heterotypic Streptococcus gordonii - Porphyromonas gingivalis communities: formation, gene regulation 
and development" in “Genomic inquiries into oral bacterial communities” 
(ed. Paul E. Kolenbrander), ASM Press, pp.313-329